[2020年度 総評]
審査員 青山学院大学国際政治経済学部教授 羽場久美子
(世界国際関係学会(ISA)アジア太平洋、副会長。グローバル国際関係研究所所長。京都大学客員教授)
現在、コロナウイルス感染者は世界で1100万人を超え、毎日20万人規模で拡大し、死者は53万人、連日5000人規模で増加している(2020/7/5)。 感染者2000万人、死者70万人も遠くはない勢いである。
特にアメリカは、感染者290万、もうじき300万を超える。死者13万人は、朝鮮戦争・ベトナム戦争など戦後すべての米兵戦争死者数を超え、さらに増え続けている(Johns Hopkins Univ.+Worldometer統計)。
その責任の多くは中国やWHOではなくトランプの対策の遅れや失政にある。欧州が収束に向かっているのと対照的である。アメリカではまた5月末にミネアポリスの警官4人が黒人(フロイドさん)の首を膝で8分46秒抑えつけて死亡させるという事件が発生、全米・全世界に抗議デモが広がった。トランプはデモをテロと呼び軍投入を宣言、エスパー国防長官やミリー統合参謀本部議長など軍部が反対するという事態の中でこの総評を書いている。コロナの広がりがアメリカの人種差別問題を増幅させている。日本や韓国が再び増えているのも無視できない。「我々はコロナと社会的混乱にどう立ち向かうか」。まさに現代的課題である。
歴史に残るパンデミックの中、APFの優れた写真と皆さんの深い洞察力に敬服している。AFPの写真は本当に奥が深く、言葉で説明できない貴重な現実を切り取り私たちに提供してくれる。それを学生たちが鋭い感性と深い洞察で説明してくれている。審査を担当させていただき、心より感謝している。息をのむ写真を見ながら、深い分析力を持つ学生の感性・知性に感動している。
当初は、悲惨な医療崩壊現場の写真に目がひきつけられた。しかしパンデミック拡大と世界の混乱の中、「我々はどう生きるか」を主体的に考え、心に残る写真を深く分析した学生の姿勢、接触が閉ざされ人が死んでいく中、どう共感・共生できるか、どこに希望と改革を見出すのか、「自分自身はどうかかわるのか」、という連帯、共生、主体性を考えた作品を選び取ることとなった。
昨年同様、どの映像もコメントもすべて選びたい衝動に駆られるほど、素晴らしいものばかりであった。中でも我々の心に最も訴えかけ、我々の考えや行動を変えさせようとする連帯や共感、主体性を持った作品に絞りこんでいった。AFPの鋭い視点の映像と、学生たちの優れた深い感性と分析力に、心より感謝と敬意を表する。
(2020年7月6日 記)
■優秀賞
- 「あなたは私は見て見ぬふりしていませんか」 東洋英和女学院大学 城守夏恋
- 「希望のマスク」 獨協大学 大塚美咲
■佳作
- 「良心をも蝕むウイルスの脅威」 早稲田大学 あおい
- 「私たちで世界は救える」 獨協大学 S.S
- 「『外出自粛』できない女性たち」 獨協大学 松尾結菜
- 「晒されることのない現実」 獨協大学 ほくほく
- 「感謝と未来」 明治大学 翁長歩美
- 「遠くから気持ちを込めて」 立教大学 大谷千賀
[作品審査を終えて]
審査員 青山学院大学教育人間科学部教授 野末俊比古
(青山学院大学図書館長・アカデミックライティングセンター長・シンギュラリティ研究所共同所長)
外出自粛、マスク、ソーシャルディスタンス‥‥私たち一般市民がいかに戦っているかを写した写真や、医療・福祉・警備などの従事者が戦っている“現場”の写真を選んだ作品が多く見られた。人気のない街中や犠牲になった人たちをとらえた写真も少なくなかった。難民・戦地などに着目したものが目についたのは、応募した皆さんが普段から注目している分野だからであろう。社会的な問題に関心を持っていることを嬉しく思う。
いずれの応募作もよく考えられていて、甲乙つけがたく、大変に悩んだが、今回のテーマ「世界は新型コロナウイルス感染症とどう戦ったのか」を受け止めるならば、いまだに続いているこの“戦い”について、“瞬間”を切り取るだけでなく、時間の流れが感じられるものであってほしいと考えるに至った──できれば希望の持てる“未来”を見せてほしいわけだが。また、何かを“伝える”のが報道写真の役割だとするならば、写真自身が何を語りかけてくるかも大事だろう。写真から“戦い”の様子が自然と読み取れること、しかし、見ているうちに何かを気づかせ、考えさせることと言い換えてもいいだろう。
今回は、上記の観点から、文章(コメント)も踏まえながら選ぶことにした。選ばなかった作品が劣っているわけでは決してない。報道写真というメディアの意味をどうとらえるかがひとつのポイントであったと思う。
新型コロナウイルス感染症という人類共通の“敵”に立ち向かおうとするとき、格差、差別、貧困、紛争といった、私たちの世界が抱えている“ひずみ”を意識せざるを得ないことを、今回の選考を通して再認識させられた。今回の応募を通して、私たちはどう生きるのか、どんな社会をつくるのか、何ができるのか、あらためて考える機会になっていればと願っている。
(2020年7月4日 記)
十大学合同セミナー応募作品 2020
AFP World Academic Archive(AFPWAA)
AFP World Academic Archive(AFPWAA)はフランス最大の報道機関AFP通信が提供する教育機関向けデータベース・サービスです。世界中に取材拠点を持つAFP通信の1000万枚におよぶ最新のデジタル写真と10万点以上のビデオ動画は、高等教育機関における学習を支援するデジタルコンテンツとして最も適しています。グループワーク、ディスカッション、論文作成、プレゼンテーションなどを行う授業及び研究において、AFPWAAの活用は非常に効果的です。
さらに、AFP通信が提供するコンテンツは著作物二次使用許諾済みで、煩雑な許諾申請など一切不要です。既に20を超える教育機関に正式導入されており、授業のオンデマンド配信、大学公式サイトから配信する公開講座、アクティブラーニング先進事例等において幅広く活用されてきました。
十大学合同セミナー
十大学合同セミナーは今年で46期を迎える学術団体です。1973年に池井優氏(現・慶應義塾大学名誉教授)、宇野重昭氏(現・成蹊大学名誉教授、島根県立大学名誉学長)らが中心となって設立されました。当初は緒方貞子氏(元国連高等弁務官)も指導メンバーの一人として携わっていた伝統ある学術団体です。
早稲田、慶応、明治、法政や津田塾、東京女子大学といった首都圏の様々な大学から参加者が集まり、4~7月の3か月間で共同論文を書き上げます。十大は設立当初からその理念として「学習と交流」を掲げており、学生たちによる議論にも重点を置いています。私たちの生きる国際社会について「大学の垣根を越えた熱い議論の場」を提供し、共同論文を執筆する学術団体です。
AFP World Academic Archiveは学術団体『十大学合同セミナー』に協賛しています。