【1月28日 AFP】北米大西洋岸の先住民が数千年にわたって繁殖し、欧州諸国による植民地化後に急速に絶滅へ向かった長毛種の犬が存在したことが、米科学誌サイエンス(Science)に発表された研究で明らかになった。

 サリッシュ(Salish)海沿岸の先住民は、20世紀初頭に消滅したこの犬の毛を羊のように刈り、毛布やバスケットを織り、儀式などで使っていたという。

 新たな研究は、この犬種の最後の数匹のうち「マトン(羊肉)」と呼ばれた個体の毛皮の遺伝子解析に基づいて行われた。毛皮は1859年に創設されて間もない米スミソニアン協会(Smithsonian Institution)へ贈られたまま、2000年代初頭まで忘れ去られていた。

 論文の共著者として名を連ねる先住民サリッシュの人々へのインタビューによると、当時の先住民社会はこの犬を家族の一員として尊重していた。また、貴重な品々にこの犬を描いた紋章が付けられていた。

 人類史の中でいつ、どこで飼いならされたのかはいまだ分かっていないが、1万5000年前、南北アメリカ大陸へ最初に定住した人々が犬を連れていたことははっきりしている。

 だが、これら先住民が連れていた犬種は、欧州からの入植が進んだ数100年の間に消滅してしまい、現在のアメリカ大陸の犬には関連する遺伝子はほとんど含まれていない。

■遺伝子解析

 論文の主著者を務めたアメリカ自然史博物館(American Museum of Natural History)の分子生物学者オードリー・リン(Audrey Lin)氏は、スミソニアン協会の博士研究員だったときに、遺伝学的研究がほとんど行われていなかった「マトン」の毛皮を見つけた。

 遺伝子解析によって、この長毛種は約5000年前に他の系統から分岐したことが分かっている。

 リン氏は「近交弱勢(近親交配による適応度の低下)の兆候が見られた。非常に長い期間にわたって、非常に注意深く、繁殖が維持されていたことを示している」と述べた。この犬が囲いの中や沿岸の島々で隔離されて飼育されていたとする先住民の証言と一致する。