【11月2日 AFP】パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)にあるベドウィン(遊牧民)の村、ワディシーク(Wadi al-Seeq)の住民約200人は、ヒツジやヤギを連れて徒歩で逃げた。1時間後、村には誰もいなくなった。

 イスラエルとハマスの武力衝突が始まってから5日後の10月12日、イスラエル人数十人が押し寄せて、1時間以内に村から出ていくよう告げられたと住民の一人は話す。数十人の中には、入植者や兵士、警察官がいた。

 住民の話によると、普段から村に対して嫌がらせをしていた入植者も交ざっていて、そのうちの何人かは軍服を着ていた。現場には、軍や警察の車両もあった。

 AFPは、当時の状況についての取材を何度も求めたが、イスラエル軍からのコメントはまだない。

 ガザ地区(Gaza Strip)を実効支配するイスラム組織ハマス(Hamas)は先月、イスラエルに越境し約1400人を殺害。230人を人質に取った。イスラエルは同地区へ報復攻撃を行い、ハマス当局によるとこれまでに8500人以上が殺されている。双方共に、犠牲者の大半は一般市民だ。

 ワディシーク村は、西岸の主要都市ラマラ(Ramallah)から東に約10キロに位置する。現在は、十数家族と共に北方の村タイベ(Taybeh)に避難しているという村の指導者アブ・バシャールさんは、「襲撃に対する報復攻撃がわれわれに向けられている」と語った。

 ガザでの武力衝突は、ヨルダン川西岸にも不穏な影響を及ぼしており、10月7日のハマスによる奇襲以降、イスラエル兵や入植者との衝突で110人以上が命を落としている。

 1967年の第3次中東戦争(Six-Day War)で占領された西岸には約300万人のパレスチナ人が暮らす。域内にはイスラエル人入植地が各地に点在しており、入植者の数は49万人にも上る。しかし、本来これは国際法を破る行為だ。

 衝突を機に、パレスチナ人への入植者による違法行為は2倍以上に急増している。国連(UN)人道問題調整事務所(OCHA)によると、脅迫、窃盗、襲撃など1日で平均3~8件発生している。

  次に狙われるのは自分が暮らす村と不安を隠せない様子でAFPの取材に応じたのは、西岸のラマラとエリコ(Jericho)の中間に位置する別のベドウィンの村に暮らすアリア・ムリハトさんだ。

「(夜は)安心して眠ることができない。悪夢のようだ」とし、「衝突が始まってから、入植者たちはより多くの武器を持つようになった」と訴える。

「入植者とイスラエル軍とによって、わたしたちは新たな『ナクバ』を経験している」

 ナクバとは、アラビア語で災厄の意味を持つ。1948年のイスラエル建国宣言を受けての第1次中東戦争で、約76万人のパレスチナ人が追放された悲劇を指す。

 OCHAによると、10月7日以降にヨルダン川西岸で避難を余儀なくされた人は607人に上っている。そのうちの半数以上は子どもだ。それ以前の避難者数は、1年半で1100人だった。