【4⽉14⽇ Peopleʼs Daily】中国・寧夏回族自治区(Ningxia Hui Autonomous Region)固原市(Guyuan)の隆徳県(Longde)紅崖村では、夜になるとあちこちにたき火が出現した。若者や子どもが勢いをつけて火の上を渡って行く。励ましの声や歓声が響く。この地方に伝わる火渡りの風習だ。

 村民の楊国権(Yang Guoquan)さんは炎に顔を照らされながら「厄落としの火渡りが終われば春です」と説明した。村が観光興しに注力したことで、この火渡りにも多くの観光客がやって来るようになった。

 この地では、古い通りのことを「老巷子(ラオ・シャンズ)」と呼ぶ。石が敷き詰められ、両側は伝統的な石壁だ。隆徳県は2010年に旧市街の通りに面した民家を保護するなどの改造計画に着手した。

 観光地化について話し合う村民大会が開催された。住人はもともと、穀物農家だった。そこで村の幹部が他の村の観光地化の状況を視察に行き、村の住人に伝えた。

 楊さんは5万元(約105万円)を投じて民宿を始めた。自宅を飲食店に改造した住人もいた。ところが年末になって収支決算をしてみると、ほとんどが赤字だった。「最初はうまくいった。でもだんだん駄目になった」「観光の目玉がない。長期にわたって観光客を呼び込めない」との指摘が出た。

 住人の一人の何功(He Gong)さんは、「老巷子の『老』の字を生かそう。内在的な文化を掘り起こすべきだ」と提案した。

 伝統的な手芸の体験教室、無形文化遺産による作品の展覧会、地元ならではの郷土料理の提供などのアイデアが出た。楊さんは切り絵という特技を生かして切り絵工房を開いた。

 楊さんは左手で紙をつまみ上げて、右手ではさみを操った。まず大胆に大まかな曲線で切り、次に紙を細かく動かしながら細かな模様を切る。あっという間に長寿を表す桃の形が反映された「春」の字が切り出された。

 楊さんは「昔は切り絵が好きなだけでした。観光と結び付いて、しかも多少は有名になるとは思いもよりませんでした」と述べた。楊さんは現在、市が指定する切り絵の無形文化財伝承者だ。

 切り絵だけではない。今では中庭があるそれぞれの古い民家でレンガ彫刻、高台馬社火という伝統的なパレード、泥人形などの無形文化遺産が披露されている。

 観光を盛り上げた鍵は伝統文化だった。年間を通じて客が絶えない。何さんの家も、いつも満員だ。「人が一番多い夏には、1日の売り上げが2万元(約42万円)になります」という。現在までに、紅崖村の老巷子では書画、飲食、民宿、物販などを行う家が48軒に達した。改造前には数千元(1000元は約2万1000円)だった1人当たりの可処分所得は、2023年には2万6000元(約54万4000円)にまで増えた。2022年通年の観光客は延べ約35万人で、売上高は2000万元(約4億1900万円)に達した。

 村落を観光地に仕立てた例は多いが、多くは一般的な商業観光地になった。紅崖村は「伝統の味」を最大限に活用した数少ない事例だ。(c)Peopleʼs Daily/AFPBB News