【1月5日 AFP】米航空宇宙局(NASA)と提携する民間企業が計画する月面での宇宙葬について、米先住民ナバホ(Navajo)が月への「冒涜(ぼうとく)」だとして反対の声を上げている。

 NASAは現在、民間企業との協力の下、1970年代のアポロ(Apollo)計画以来50年以上ぶりとなる有人月面探査計画「アルテミス(Artemis)」を進めている。

 その一環として今月8日、米宇宙企業アストロボティック・テクノロジー(Astrobotic Technology)の着陸船を搭載したロケットの打ち上げを予定している。

 同社の月着陸船「ペレグリン(Peregrine)」には、月面の放射線を調査するための機器が搭載されるが、さらに宇宙葬企業2社、エリジウムスペース(Elysium Space)とセレスティス(Celestis)の積み荷として遺灰やDNAが搭載される。

 エリジウムスペースは、詳細を公表していない。

 一方セレスティスは、人気SFドラマシリーズ「スター・トレック(Star Trek)」の生みの親とされるテレビ・映画プロデューサーのジーン・ロッデンベリー(Gene Roddenberry)や、SF小説の巨匠アーサー・C・クラーク(Arthur C. Clarke)ら69人の「参加者」がいると発表。

 同社ウェブサイトによると、月面の宇宙葬費は1万2995ドル(約190万円)からとなっている。

■NASAは会合を約束

 こうした中、米最大の先住民居留地ナバホ・ネーション(Navajo Nation)のブウ・ニーグレン(Buu Nygren)大統領は先月21日、NASAに打ち上げの延期を要請した。

 ニーグレン氏はNASAと運輸省関係者に宛てた書簡で「最も重要な問題に関する、深い懸念と失望」を表明。「われわれを含む多くの先住民文化において、月は神聖な位置を占めている」「他の場所であれば投棄したとみられてもおかしくない遺灰のような物質を月にとどめる行為は、神聖な空間を冒涜するに等しい」と強く主張した。

 ニーグレン氏はまた、この状況はNASAによる1998年の月探査ミッション「ルナ・プロスペクター(Lunar Prospector)」を想起させるとも指摘。実験として意図的に月面に衝突させた探査機には、著名な地質学者ユージン・シューメーカー(Eugene Shoemaker)の遺灰が搭載されていた。

 このときもナバホは反対の声を上げた。当時のワシントン州スポケーン(Spokane)の地元紙は、NASAは謝罪し、今後は先住民と協議すると約束したと報じている。

 NASAの探査ミッションを担当するジョエル・カーンズ(Joel Kearns)副管理官は4日の会見で、「われわれはナバホの懸念を非常に真剣に受け止めている」と述べ、ナバホとの会合を手配したと明らかにした。ただし、民間企業の積み荷についてはNASAの管理が及ばないと述べた。

 一方、セレスティスはそれほど融和的な態度を示していない。同社は「すべての文化の宗教的慣習に関する権利を尊重する」と述べつつ、今回のミッションが「月を冒涜する」ものだという主張を否定。遺灰は月面に埋葬されるのではなく、着陸船に搭載されたままになると強調した。(c)AFP/Issam Ahmed and Lucie Aubourg