■「国家の存続」

 政治アナリストのタチアナ・スタノバヤ(Tatiana Stanovaya)氏は、中絶は今や「国家の存続問題と見なされている」と説明する。 

 またプーチン氏が政府方針に抵抗するあらゆる社会的立場について、西側諸国の策略だとみているとも指摘した。「中絶もその一部だ。女性に中絶させることは、ロシアの人口問題を悪化させようとする西側の策略だと考えている」

 政府系のクリニックでは長年、女性に中絶を思いとどまらせるために「相談会」を実施してきた。だが保健省が新たに発表した医師向けの勧告は、もっと強引な方法を推奨している。

 人口学者のビクトリア・サケビッチ(Viktoria Sakevich)氏は「女性たちにプレッシャーをかけ、脅し、(中絶を)止めさせようとする態度だ」と批判した。中絶を回避させた医師に報奨金を支給する地域もあるという。

 もしも民間クリニックでの中絶が禁止されれば、中絶薬の闇市場や違法な中絶処置が広がりかねないとサケビッチ氏は懸念する。

■さらなる規制の可能性

 ロシアの中絶反対派はかつては少数派だった。だがウクライナ侵攻によって、以前よりも過激な提言ができる「政治的環境」が生まれたと、スタノバヤ氏は言う。

 政治学者のエカテリーナ・シュルマン(Ekaterina Schulmann)氏は、来年3月に大統領選を控えて「戦争や経済状況について話すことができない」時期に、ロシア国民に意図的に与えられた話題が中絶をめぐる議論だと指摘。

 さらに、当局は「女性にもっと子どもを産ませようとするのではなく、人口減少の主要因となっている男性の早世を解決すべきだ」と批判した。

 しかし、若者から壮年期まで非常に多くの男性がウクライナの戦場へ送られている今、男性の寿命に関する話はタブーだ。

 ロシア人の人口学者で、フランス・ストラスブール大学(University of Strasbourg)に所属するセルゲイ・ザハロフ(Sergei Zakharov)氏は、「さらなる禁止、さらなる規制が予想される」と警告している。

「中絶の規制を含め、あらゆる手段で出生率を上げようとする」ことは、スペインのフランシスコ・フランコ(Francisco Franco)やイタリアのベニト・ムソリーニ(Benito Mussolini)といった独裁者がやったことだとザハロフ氏は批判する。「こうしたやり方が成功したためしはない」 (c)AFP/Ola CICHOWLAS