■倫理的な問題

 ただし、それは小さな一歩にすぎない。宇宙で培養された胚を地球上で女性の体内に移植し、実際に妊娠・出産につなげることには、倫理的に大きな問題をクリアする必要がある。

 エーデルブルック氏は言う。「慎重に取り組むべき課題だ。脆弱(ぜいじゃく)なヒトの精子・卵子、受精卵を危険に満ちた宇宙空間にさらすことになる。宇宙空間の放射線は地球よりもはるかに強く、重力環境も異なる。受精卵はそうした環境に対応できるようにはできていない」

 こうした倫理的な問題は、スペースボーンのような民間企業が宇宙空間における生殖研究に取り組む理由の一つとなっている。米航空宇宙局(NASA)では、こうしたセンシティブな計画に税金を投入しにくいという事情があるのだ。

 エーデルブルック氏は、宇宙空間でヒト胚の培養を試みている企業は自身の会社だけだと話す。

 体液は地球上では下に向かおうとするが、低重力環境下ではそうはならない。そのため、人の体はあらゆる問題に直面することになる。

「大人なら多少の変化に対処できるが、成長過程にある、より脆弱なヒト胚を宇宙空間のさまざまな変動要因にさらしたくはない。そこで、まずは完璧な環境をつくることが必要となる」

■「宇宙ベビー」誕生を確信

 宇宙空間での生殖に関わってくる新たな要素としては、米宇宙開発企業スペースX(SpaceX)や米宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)といった企業が推し進める「宇宙旅行」がある。

 エーデルブルック氏は、宇宙旅行中に人類初の「宇宙妊娠」を成功させ、歴史に名を残そうと考えるカップルが出てくる可能性があると警告する。そういった「リスク」を認識してもらうために宇宙旅行業界には注意を促しているという。

 他方で課題の大きさが明確になってきたのに伴い、計画の見直しを迫られたとも話し、「われわれは『とてつもなく野心的』から、『とても野心的』に変化せざるを得なかった」と説明した。

 それでもなお、生きているうちに「宇宙ベビー」の誕生に立ち会えると確信している。

 エーデルブルック氏は現在48歳だが、「遅くとも100歳までには実現する」と予想する。

「それだけの年数があれば必ず成し遂げられるだろう」

 映像は10、11月に撮影。ビデオグラフィックは「スペースボーン・ユナイテッド」より提供。 (c)AFP/Richard CARTER