■ペソはどうなる

 政府はインフレに歯止めをかけるため、何年にもわたってペソの対ドル相場を厳格な管理下に置いてきたが、大統領選決選投票の3か月前に大幅に切り下げ、その水準で維持。現在は1か月につき3%の下落を容認している。

 英調査会社、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)のシニアアナリスト、ニコラス・サルディアス(Nicolas Saldia )氏は、為替相場とは「完全な虚構」だと指摘。「維持するには極めて高くつく。ところがアルゼンチンでは文字通り資金が枯渇している。(現行の)相場制度を維持するのは無理だ」と話す。

 GBAOストラテジーズ(GBAO Strategies)の政治アナリスト、アナ・イパラギレ(Ana Iparraguirre)氏は、ミレイ氏が大統領に就任するまでの数週間に「事態は急速に管理不可能となる恐れがある。非常に不安定な局面となる」と予想した。

 サルディアス氏は、民衆はドル化が近く実施されると思い込んでパニックになり、ペソ預金の取り付け騒ぎに発展する可能性もあるとしている。

 大統領選でミレイ氏に敗れたセルヒオ・マサ(Sergio Massa)経済相が、もう一段のペソ切り下げに踏み切る可能性もある。ミレイ氏にとってそれは「政治的な代償を払わされる」ことを意味する。

 サルディアス氏は、「インフレはおそらく急上昇するだろう」とし、ハイパーインフレに陥る可能性もあると警告した。

■「チェーンソー・ミレイ」

 ミレイ氏は大統領選の集会でしばしばチェーンソーを手に登壇した。公的支出15%削減、国営企業の民営化、燃料・交通・電気補助金の削減といった公約を象徴するトレードマークとなった。

 こうした緊縮策は以前からIMFに要求されてきたものだ。IMFはこれまでアルゼンチンに22回、救済の手を差し伸べてきた。直近では2018年、440億ドル(現在のレートで約6兆5000億円)の金融支援に踏み切った。

 ミレイ氏はしかし、財政赤字、累積債務、紙幣の増刷、そしてインフレという悪循環からの脱却を試みてきたこれまでの政権と同じ課題に直面するとみられる。

 アルゼンチンが抱える経済問題の解決は厄介だ。補助金を撤廃したり福祉支出を削減したりすれば貧困を悪化させるだけだ。通貨を変動相場制に移行させれば、輸入物価はもう一段跳ね上がるだろう。

 ゲダン氏は「現段階では、一つ解決してもまた次の問題が悪化する」と語った。

「安定化プログラムが本格導入された場合、その痛みは強烈で、かつ広範に及ぶだろう。しかも、国民に明るい展望が見えてくるのか、定かではない」

 ミレイ氏を支持しない有権者がほぼ半分いることを考えれば、反政府運動や社会不安を招く危険もある。

■朗報はあるのか

 ゲダム氏は、仮にミレイ氏と協力者が最も脆弱(ぜいじゃく)な立場の国民を守る一方で、歳出削減や福祉支出・補助金の削減を実現できたなら、「良い方向に向けての転換点となる可能性はある」と分析する。

 また、アルゼンチンは100年間で最悪の干ばつに見舞われ、過去2年間は農産品輸出が激減し、200億ドル(約3兆円)の歳入不足に陥ったが、2024年は一転、豊作が見込まれている。

 さらに、同国の民間調査会社アベセブ(Abeceb)のエコノミスト、エリザベット・バシガルポ(Elizabeth Bacigalupo)氏は、南部の大規模なシェールオイル・ガス田であるバカムエルタ(Vaca Muerta)からの新ガスパイプラインの輸送能力が増強されれば、エネルギー輸入は年間100億ドル(約1兆4800億円)圧縮されると推定している。(c)AFP/Fran BLANDY