【10月22日 東方新報】人類とエイリアンとの戦いを壮大なスケールで描いた小説「三体」の日本でのヒットも記憶に新しいが、中国のSF(サイエンスフィクション)は国内外で存在感を増す一方だ。その勢いに弾みをつけるべく、四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)でSFやファンタジーのファンが集う「世界SF大会」が開かれ、ファンのみならず市民を巻き込んで盛り上がりを見せている。期間は10月18日から22日まで。1939年にアメリカのニューヨークで始まった同大会は今回で81回目だが、中国での開催は初めてだし、アジアでも2007年の横浜に続き2回目。盛り上がりにも拍車がかかる。

 メイン会場として築かれた「成都SF館」の幻想的で壮麗な姿がその盛り上がりを象徴する。建築総面積が約5万9000平方メートルに及ぶ未来建築をイメージさせるデザインで、授賞式のホールやコンベンションセンターも含む。星雲をイメージさせる非対称の形状の銀色の金属製の屋根の一部は、水滴形の巨大な採光ガラスが埋め込まれている。ガラス部分の大きさは宇宙年齢138.2億年にちなみ1382平方メートルだという。

 そして街には子供たちが描いた未来や科学の想像力にあふれた絵が貼られ、大会特別仕様の列車が走っている。

 この成都とSFの関わりは深い。中国初のSF雑誌「SF世界」が生まれたのがこの成都だった。

 今や世界で最も発行部数が多いSF雑誌となったという「SF世界」は、中国の数世代にわたる作家、読者、映画関係者などSF人材を育んできた。その存在感について、中国SF映画『流浪地球2(英題:The Wandering Earth 2)』のプロデューサーで、自らもSFマニアの龔格尔(Gong Ge‘er)氏はこう表現した。

「『SF世界』がありさえすれば、中国のSFはある」

 先に触れた日本でもベストセラーになった「三体」第1部は、2015年のSF作品の文学賞ヒューゴー賞の長編小説部門の受賞作。劉慈欣(Liu Cixin)氏のこの作品も元はといえば「SF世界」で発表されたものだった。中国SF界の四天王と呼ばれる劉慈欣、王晋康(Wang Jinkang)、何夕(He Xi)氏、韓松(Han Song)各氏の代表作はいずれも「SF世界」に掲載されたものだ。

「SF世界」の存在によって成都には多くのSF人材が集まったという。40億元(約819億円)以上の興行成績を収めた大ヒット映画『流浪地球(英題:The Wandering Earth)』のハリウッド映画顔負けの特殊効果の一部は成都で制作されたものだ。SF図書出版、ゲーム製作などの分野でも中国の先頭を走っている。

 成都のほとんどの大学には学生SF協会があり、四川大学は中国SF研究院を設立して理論の面からの研究を進めている。

 著名なSF作家の万象峰年(Wanxiangfengnian)氏は、北京から引っ越してきただけでは足りず、SFカフェをオープンしてしまった。

 こんな背景を知れば、中国初の世界SF大会が成都で開かれたのにもうなずける。劉慈欣氏はこう述べる。

「これは中国のSF史に残すべき価値のある出来事だ」

 今回の大会を通じて期待するのは、中国のSF作品をさらに世界に知ってもらうことだ。また、劉慈欣氏に続く新たな才能が育つことだ。

 成都市内のある図書館には「SF世界閲創センター」がある。いわば成都初の公共SF図書館だ。5000冊余りのSF関連の蔵書以外にも宇宙探索や未来科学をテーマにした展示もあり、仮想現実(VR)体験もできる。小さな子どもたちはSF漫画やVR、大きな子どもたちは著名なSF作品と、大人も含めた異なる世代層で楽しめる工夫がされている。図書館のスタッフは、今大会を契機に、幅広い愛好家たちに交流や学習など新たな共有の場を提供したいと話している。

 中国発のSF作品からますます目が離せなくなりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News