■ナショナリズムが根底に

 DFRLabは9月に公表した報告書で、パンダが虐待されているという「物語に、米中間の競争激化の下での関係悪化が投影されている」と指摘。「そうした物語は中国のナショナリズムや西側不信に深く根差しており、中国国内のメディアやSNSによって増幅されている」としている。

 AFPのジャーナリストは9月末、メイシャンとティエンティエンを見に行った。動物園では9日間にわたり、パンダをテーマにした飲食物やフィルム上映、ミュージックコンサートを提供する「パンダ・パルーザ(Panda Palooza)」と銘打ったイベントが開催中だった。囲いの中の彼らは元気そうで、氷菓子にかぶりついていた。

 イベントは、中国政府との貸与契約が期限切れとなり、12月に中国に返還されるメイシャンとティエンティエン、そして2頭の間に生まれた3歳のシャオチージー(小奇跡)にお別れを告げるためのものだった。インターネット上に出回っている偽情報について動物園に問い合わせたが、コメントはもらえなかった。

 メンフィス(Memphis)動物園にいた別の雌パンダ、ヤーヤー(YY)も4月、貸与期限切れとなり、中国に返還された。それに先立ち、中国の活動家やSNS利用者は、動物園が虐待していると騒ぎ立てていた。

 ヤーヤーとつがいだったリーリー(楽楽)に至っては、飼育員に刺殺され、眼球が売りに出されたといったデマが拡散し、動物園が矢面に立たされた。

 動物園側は「偽情報」だと強く否定。中国動物園協会(Chinese Association of Zoological Gardens)も共同声明で、パンダは「手厚い扱い」を受けていたとし、飼育員を擁護した。

 だが、こうした対応も、ナショナリストの怒りを静める役には立たなかった。