【9月10日 AFP】ベネズエラの首都カラカスの通りからニューヨーク、パリ、東京のおしゃれな飲食店まで、素朴なとうもろこし粉を使った、薄焼きパンのような「アレパ」が広がりを見せている。背景には、世界各地に渡ったベネズエラ移民の存在や、グルテンフリー食材や珍しい外国料理への需要拡大がある。

 加熱処理済みのとうもろこし粉を水と混ぜてボール状にした後、平たく成形して、焼くだけで数分で完成する。チーズや肉、豆、魚介類、野菜など好きな具材を載せたり挟んだりして食べる。

 アレパが毎日のように食べられているベネズエラでは、「レイナ・ペピアーダ(Reina pepiada)」という鶏肉とマヨネーズ、アボカドの組み合わせが人気だ。

 トウモロコシのおいしさだけにフォーカスした書籍「アレポロゴ(Arepologo)」をフランス語に翻訳したパトリック・リバス(Patrick Ribas)氏は「(アレパは)ベネズエラ人の日常食だ。毎日、毎晩食べる」と話す。

 リバス氏はAFPに対し、「好きなものを載せて食べられる。食器のようなものだ。お金がなければそのままで食べる。残念ながら、多くのベネズエラ人は(アレパだけを)そのまま食べている」と述べた。

「アレポロゴ」の著者リカルド・エストラーダ・クエバス(Ricardo Estrada Cuevas)氏によれば、アレパは「社会階層とは無関係の食べ物」という。「質素に暮らす人々から管理職の地位にあるような人まで、誰もが食べる」と説明する。

■グルテンフリーと異国情緒

 政治的・経済的な危機により、ベネズエラでは2013年~22年に国内総生産(GDP)が80%減少した。その影響で近年、人口の4分の1近くに相当する700万人以上が国を離れ、それに伴って、料理も世界各地に広がった。

 ベネズエラで弁護士として働いていたマーリン・キロガさん(47)は5年前にニューヨーク市に移住した。その後、いくつかの職業を転々とした後、2021年にアレパのケータリングを始めた。それまでは「卵を焼く方法すら知らなかった」という。

 美容室やオフィスを訪問して試食品を無料配布するなどの営業活動はすぐに結果につながった。ニューヨークでは現在も、パンよりもグルテンフリーのアレパを好む人が増えていると話す。

 欧州でも広まっている。パリにあるベネズエラ料理店の客の一人は、「よくあるハンバーガーとは違う」とアレパについて語った。

 このレストランを営むのは、2011年にパリに移住した元石油エンジニアのルイス・フェルナンド・マチャドさん。キッチンカーで始めた商売だが、今では10人の従業員を雇うまでになった。

「パリジャンは異国情緒あふれる、なじみのない食べ物を試すのが大好き。カリブ海(Caribbean Sea)への旅気分を少し味わえるのでしょう」