【7月8日 AFP】台湾の医師リン・ユーティンさん(45)は、週末の時間を割いて民間防衛について学んでいる。将来、中国の攻撃を受けた場合に備え、自分の子どもたちにも伝えておきたいとの考えからだ。

 リンさんが通っているのは、民間防衛に関する情報提供団体「黒熊学院(Kuma Academy)」が台北で開いている講座だ。防衛といっても、武器の取り扱い方を教わるわけではない。ここでは、中国によるハイブリッド戦争に対して、いかに対処すべきかを学ぶ。

 ロシアによるウクライナ侵攻や、ここ1年余の間に2回行われた中国の軍事演習を受け、台湾では最悪の事態への危機感が高まっている。リンさんが参加する講座もそうした危機感の表れの一つだ。

「戦争が起きる可能性があるなら備えておく必要がある」とリンさんは語る。「前線で戦う以外にも(台湾の)力になれる方法はある」

 危機対応については誰もが知っておくべきで、それは8歳と12歳になる自分の子どもも同じだと話した。

 黒熊学院の講座では、最寄りの防空壕(ごう)を見つける方法や、非常用の持ち出し袋に何を詰めるべきかといった、有事の際の避難に役立つ実用的な情報が得られる。

 また、中国軍の侵攻で想定される事態について出回っている、「ミサイルを1000発撃ち込まれる」「5000隻の艦船が台湾に押し寄せる」といった誤情報についても取り上げる。

 黒熊学院は、講座を通じて、台湾の民主主義や防衛体制への信用を失墜させようとする中国の試みに対し、「心理的防御の第一線」を築いていると話す。

 2022年1月以来、黒熊学院では約1万人を対象に講座を開いてきた。民間防衛の知識を得たいと考える住民は多く、あっという間に満席となる。

 最近では、男性よりも女性の方が積極的で、女性限定の講座も複数提供している。

 人口2300万人の台湾では近年、戦争を念頭に置いた訓練により多くの市民が参加するようになった。政府も空襲を想定した訓練を全土で実施したり、中国の侵攻についてのハンドブックを作成したりしている。