【7月16日 AFP】ペルー、ブラジル、コロンビアが交わる南米アマゾン(Amazon)の奥地で、キリスト教プロテスタント福音派とインカの儀式を組み合わせた風変わりな教団が、「最後の審判」後のインカ帝国の復活と新世界秩序を待ち望んでいる。

「新世界協定イスラエル人(Israelites of the New Universal Pact)」と名乗っているが、ユダヤ教とは全く関係ない。

 独自の聖書と戒律を持つ教団の創始者は、2000年に亡くなったエセキエル・アタウクシ・ガモナル(Ezequiel Ataucusi Gamonal)氏という自称預言者で、今は息子のジョナス氏が後を継いでいる。

 元はカトリックの信者だったガモナル氏は、セブンスデー・アドベンチスト教会への改宗を経て、1970年代にペルー・アンデス(Andes)で教団を創始した。

 3か国の国境地帯を撮影しているドキュメンタリー監督のリオネル・ロッシーニ(Lionel Rossini)氏によると、教団は後に拠点をアマゾン熱帯雨林へ移転した。信者たちはそこを聖書に登場する「約束の地(Promised Land)」とみなし、世界の終末を生き延びる唯一の場所だと考えている。

 教団は土地を持たない先住民を中心に、衰退したペルーの左翼ゲリラ「センデロ・ルミノソ(Shining Path、輝く道)」の元戦闘員やアマゾン都市部の貧困層などを勧誘。2000年までに信者の数は20万人に迫った。だが同年、ガモナル氏が亡くなったが、3日後の復活が実現しなかったために離脱した信者も多かった。

 残った信者の多くは、アマゾン川流域の村に住み着いた。中でも支流のジャバリ(Javari)川流域にある町イスランディア(Islandia)は、人口3000人のうち約3分の1が教団の信者とされる。川沿いに高床式の木造家屋が並ぶ、「ジャングルのベニス」のような町だ。

■「人身売買の巣窟」

 イスランディアには車もバイクもない。男性は髪とひげを伸ばし、色とりどりの祭服を着ている。女性は長袖の控えめな服装で髪を隠している。毎週土曜には、牛、ヤギ、ニワトリなどを焼いて神にささげるために信者が集まる。

 多くは農民で、収穫した米や野菜の一部を売っている。自らは信者ではないという町長は「漁業や行商で生活している人もいるし、いろいろなことを少しずつやっている。役人もいる」とAFPに語った。信者たちは「神の仕事の一部として働いているので勤勉と評判だ」とロッシーニ氏が付け加えた。

 ブラジルで2番目に大きい先住民居住地域で、世界最後の未接触部族が住むジャバリ渓谷への玄関口が、ペルー側のこのイスランディアだ。町長らは1軒しかないレストランと建設中の市場を目玉に、観光地として発展させようとしている。

 しかし、密林の奥では麻薬密売人や採掘・伐採の違法業者、密猟者、無許可の漁師など無数の犯罪者が暗躍している。

 ペルー軍の船は停泊しているが、よく訪れるというある人物は匿名で取材に応じ、この町は「あらゆる種類の密売人の巣窟だ」と語った。

■政界へも

 信者らはまた「ペルー農民戦線」という独自政党を結成し、幾つかの地方自治体で議席を獲得。自治体長としても選出されている。2020年の国会議員選挙での得票率は8%を超え、多くの人を驚かせた。

 同政党は貧困と闘う最良の手段として、神の法の適用と農業を掲げている。(c)AFP/ Herve BAR