【6月18日 AFP】イランの首都テヘランのグランドバザールの薄暗い一角で、アート用の色鉛筆を専門に扱う小さな店を営むモハンマド・ラフィさん(50)は、あらゆる色彩の鉛筆に取り囲まれている。

「街の中の街」として知られる市場の奥まった場所にある「メダード・ラフィ(ラフィの鉛筆)」は、床から天井まで鉛筆が積み重ねられており、写真映えのする光景が広がっている。

 ラフィさんは過去35年間、想像できるあらゆる色調の数千本の鉛筆をそろえることに情熱を注いできた。

「鉛筆が何本あるのか分からないが、約200色ある」とラフィさん。

 幅広い年齢層の顧客を迎えてきた店舗は、市場でアートや工芸品関連の店が軒を連ねる場所にある。広さはわずか約3平方メートル。ラフィさんは「お客さまが訪れるたびに、たとえ何も購入しなかったとしても楽しんできた」とほほ笑む。

 青とオレンジの2本の鉛筆を探し試し書きをする女子学生に、ラフィさんは10分間にわたってアドバイスを送った。

■「色合いや質感」

 鉛筆は箱売りではなく、ばら売りしている。「使う目的によって色合いや質感、ブランドを顧客にアドバイスしている」と話す。

 国産品や欧米からの輸入品をそろえ、顧客が望む幅広い予算に対応しているのも自慢だ。高額な鉛筆は1本約2ユーロ(約300円)だが、品質も最高級だという。

 子どもの頃から絵を描くのが好きだったラフィさんは、鉛筆製造メーカーで働いた後、自身の店を開いた。

 今やハイテク機器やタッチスクリーンが全盛期となり、色鉛筆の黄金時代は過ぎ去ったと認め、子どもたちが学校かばんに鉛筆を入れて持ち歩いた前世紀を懐かしむ。

 医師の息子は「この仕事に興味がない」といい、仕事を継がせる予定はない。ただ、引退するまで常連客を迎え続け、「もはや製造されていない鉛筆」を含めて創造的なニーズに対応していきたいと考えている。

「幸いにも、長年集めた十分な在庫がある」。ラフィさんはそう言うと、72年前に作られた最も古い鉛筆を誇らしげに手に取った。(c)AFP