【5月18日 AFP】トルコ出身のシェネル・サルグトさん(80)は60年以上、ドイツで暮らしている。ドイツ人女性と結婚し、ドイツ語も流ちょうだ。しかし、ドイツ国籍は持っていない。二重国籍が認められておらず、取得するにはトルコ国籍を放棄しなければならないため、あきらめてきた。

 しかし、規制は変わる可能性が出てきた。厳格な国籍法を改正し、トルコ系をはじめとする在住外国人に二重国籍を認めることを盛り込んだ改革案が検討されているのだ。

 年金生活者のサルグトさんは、独フランクフルトの自宅でAFPの取材に対し「ドイツ国籍の取得を考えたこともあったが、トルコ国籍を放棄しなければならないのでいつも思いとどまった」と語った。

 サルグトさんは教育機関の責任者を長年務めてきた。子どもは2人いる。ドイツ在住トルコ人の権利保護を求めるNPO「TGD」の創設者でもある。

 改革が遅々として進まないことには「怒り」を覚えているが、ついに変わりそうだと、前向きな気持ちになっている。

 連立政権は現在、改革に向け協議を行っており、近く合意に達する可能性を示す明るい兆しも見えてきた。

■「ガストアルバイター」の流入

 イスタンブール出身のサルグトさんは1959年、留学のためフランクフルトにやって来た。その2年後、ドイツとトルコは2国間労働協定を結び、ドイツでの就労を希望するトルコ人が大量流入するようになった。

 当時のドイツは依然、第2次世界大戦(World War II)後の復興途上で、荒廃した都市の再建や造船所、製鉄所、自動車工場など多くの部門で労働力を必要としていた。

「ガストアルバイター(ゲスト労働者)」と呼ばれる出稼ぎ労働者を募るため、トルコ以外にもイタリアやチュニジア、ギリシャなどと協定が結ばれた。

 73年まで続いた2国間協定に基づく外国人労働者の募集を通じ、トルコからは約87万人が流入し、そのうち数十万人が残留した。ドイツは欧州最大の人口を擁するが、こうした外国人の大量流入は社会的・人口動態的に大きな変化をもたらすことになった。