今日のセミナ-は大学生の皆さんにとっても馴染みの深いテーマ、「教育、雇用、仕事」という観点から、アフリカの現状と貧困、さらにアフリカにおけるJICAの協力についてご報告させていただきます。

教育と雇用

アフリカでは87%の子供が初等教育終了までに、最低限の読み書きを習得できていない状況です。
加えて理科、数学などの習熟度も大変低い状況にあり、将来彼らが就職するにあたっての課題となっています。
高等教育職業訓練の成熟度の世界ランキングでは、アフリカ28カ国が百位以下にあります。大学、高校、職業訓練校を卒業しても、労働市場が求めるスキルを習得していない学生たちが非常に多く、労働市場と卒業生の間にスキルのギャップが生じています。
さらに基礎学力以外にも求められるスキル、例えば、リーダーシップ、チームワーク、もしくはルールを守るということにおいても、アフリカの学生たちは弱いと言われています。
次に貧困ライン以下の労働者の比率ですが、世界の平均10%未満のところ、サブサハラアフリカは38%となっております。就職しても貧困ライン以下の生活をせざるを得ない方たちがとても多いのです。
正規の仕事が少ないので、非正規の仕事をせざるを得ない。労働賃金が低く労働環境も悪い、労働者の権利が守られていない、貧困の罠からなかなか抜け出せないと言う状況があります。
ただ、このように非常に厳しい環境ではありますが、アフリカ人のビジネスリーダーは80%が将来を楽観視しています。例えば、アフリカでのスタートアップ投資は、この数年で毎年増加しています。2019年度は約20億ドルの投資がアフリカに集まりました。2020年度からコロナの影響を受けて少し投資額が落ち込んでいますが、2021年度はこの投資額が前の水準に戻るだろうと言われています。
 

援助から協力へのパラダイムシフト

JICAはどんな協力をしているのか。雇用という観点では持続的な社会基盤という柱の中で、JICAはディーセント・ワークの実現を支援しています。今年は対アフリカ向けの協力の方向性を議論するアフリカ開発会議(TICAD)がチュニジアで行われます。外務省やJICAでは会議に向けて今後の協力のありかたについて検討しています。
現在、援助から協力へのパラダイムシフトがおきています。従来は先進国が開発途上国に対して何らかの支援を行うと言うかたちでした。しかし今は国際社会が直面する課題を、開発途上国と我々が対等なパートナーとして一緒に課題解決をして行くという枠組みに変わってきています。
また、従来は開発課題解決の主体として政府がメインのアクターとして考えられていましたが、今は企業、地方自治体、NGOなどさまざまな組織があり、JICAはこれらの方々と一緒に協力してプロジェクトを進めています。

みんなの学校プロジェクト

教育分野での協力についていえば、開発途上国では教育にアクセス出来ない、質の高い教育を受けられないという課題があります。
それを改善するためにJICAではアフリカの行政機関の方たちと学校運営委員会を作っています。
この問題の解決を教員、政府にだけ任せるということではなく、学生・生徒の保護者、教員や地域住民みんなででこの学校運営をどうすべきなのか、どうしたらより良い教育を子供たちに受けさせられるのかということを目的として協同で取り組んでいます。
この取り組みはニジェールで始まり、現在ではアフリカ八カ国で52,000校以上に対して協力をしています。最近はコロナの影響などもあって、感染症対策をどのように学校やコミュニティで行っていくのかを、学校運営委員会で検討しています。
 

スタートアップ支援:Project NINJA

次に、スタートアップ支援についてご紹介します。JICAの留学生プログラム(ABEイニシアティブ)に参加されたダニエルさんの事例です。ダニエルさんは日本に留学中、スイカとかパスモなどのICカード技術を知って、なんとか自分の国でも導入したいという意向がありました。そして、JICAのProject NINJAというスタートアップ支援プログラム(ビジネスコンテスト)に応募され、優秀賞を取りました。日本で楽天の経営指導なども受けながら、今では本国に帰ってこのICカード技術の普及を行っています。

JICAの民間連携事業

最後にご紹介するのはJICAの民間連携事業です。これは日本の中小企業が海外で事業展開をするための支援プログラムです。
滋賀県にある辻プラスチック株式会社は「自動発光道路鋲」を製造しています。「アフリカは街灯等も少ないので、需要があるだろう。何とかアフリカで事業展開できないか?」という意向を持っていました。
日本の会社がアフリカで自社製品を普及展開して行くためには、現地のマーケットに精通している人材、ビジネス関係者が必要です。そこでJICA海外協力隊を経験された女性のかたを推薦しました。彼女は辻プラスチック株式会社に就職され、現在はアフリカ現地での事業を担当しています。
中央の写真の彼はABEイニシアティブの留学生として、辻プラスチック株式会社でインターンとして働いていました。彼が卒業して本国に帰国した後、この会社で商品を展開する営業を担っています。
これはJICA海外協力隊、ABEイニシアティブの成果を活用して行った民間連携事業のひとつです。

以上、本日はJICAの活動のいくつかをご報告させていただきました。
「産業人材の育成、雇用の創出、日本の中小企業の海外展開、及びアフリカでのビジネスの拡大」こういった分野における課題解決が、JICAが担っている重要な仕事のひとつです。
 

※ディーセント・ワーク (Decent Work)は”働きがいのある人間らしい仕事“と訳され、1999年に、国際労働機関(ILO)のファン・ソマビア元事務局長が提唱した考え方。
※ABEイニシアティブは、日本企業のアフリカ進出の水先案内人となるアフリカ人材を育成する事業。外務省がJICAを通じて2014年からの5年間で全54ヶ国・1200人以上のアフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供した。

鈴木桃子 氏
独立行政法人 国際協力機構アフリカ部アフリカ第二課 課長 

2002年国際協力事業団(旧JICA)入団。エチオピア事務所での勤務経験から、民間セクター開発に関心を持つ。
総務部、産業開発・公共政策部などを経て2020年から現職。タンザニア、ウガンダ、エチオピア、ジブチ、ガーナ、リベリア、シエラレオネに対する協力を総括。埼玉県出身。