■誰もが「カマンベール」を名乗る現状

 カマンベールチーズは、1791年にノルマンディー地方のカマンベール(Camembert)村のマリー・アレル(Marie Harel)が、フランス革命から逃れてきた聖職者から教わったブリーチーズのレシピをアレンジして作ったのが始まりだと言われている。

 カマンベールの製造が体系化されたのは1982年になってからのことで、11センチの大きさの型に対し少なくとも5杯のカード(凝乳)を使うこと、余分なホエー(乳清)を排出すること、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)という白カビを表皮に繁殖させるために少なくとも3週間熟成させることなどが定められている。

 だが、既存法はこれよりも条件が緩い製造法の同種のチーズにカマンベールの呼称使用を禁じる定めがなく、これが重大な欠陥となっている。

 この結果、乳製品大手が市場にこぞって参入し、伝統的な生産者が締め出されてしまった。今やAOP認定を受けているカマンベール生産者は10軒以下で、年間生産量は5500トンにとどまっている。一方、大手企業はカマンベールの名を冠した年間6万トンのチーズを、AOP生産者の半分程度の費用で生産している。

 フランスの食品品質当局である国立原産地・品質研究所(INAO)による改正案は11月に審議にかけられる予定で、それに向け議論はさらに激化するとみられている。

 ただし仏議会の承認を得たとしても、さらに欧州連合(EU)の承認を得る必要があり、EUで認められる可能性は低いと、リシェルルージュさんは指摘する。

「AOPは特定の分野におけるただ一つの製造ノウハウと伝統を伝えるためのものだ」と語る。「AOPがそれを100%保証できないのであれば、将来の世代は本当のカマンベールを楽しめなくなってしまう」 (c)AFP/Joseph Schmid