■少ない医師

 アランケルから20キロほど離れたシャルダ(Sharda)村では、2つの山に分散して住んでいる村人たちが利用できるBHU(Basic Health Unit、簡易診療所)は1か所しかない。

 このBHUには医師が1人いるが、男性であるため妊婦の診療や出産の立ち合いなどはできない。この医師のほかに現地で「レディー・ヘルス・ビジター」と呼ばれている女性が3人いるが、健康や衛生について住民の意識を高める啓発活動を行うのが仕事で治療はしないし、そもそも医学的な訓練を受けていない。 

 結局、シャルダ村とその周辺一帯(人口約1万7000人)で出産を助けることができるのは助産師1人だけだ。

 医師で、パキスタン支配のカシミール地方の医療サービス事務局長を務めるサルダル・マフムード・アーメド・カーン(Sardar Mahmood Ahmed Khan)医師によれば、同地方の人口440万人に対して医師の数はわずか1050人だという。応急処置のクリニックから病院まで医療施設の数は758か所。レディー・ヘルス・ビジターは約3000人だ。