【3月9日 AFP】インド・ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州の聖地アヨディヤ(Ayodhya)に1月、モスク(イスラム礼拝所)跡地に建てられたヒンズー教寺院の開設式典に国中の名士が集まった。

 だが、この寺院に祭られたラーマ(Ram)神を最も熱烈に信奉する宗教運動「ラムナミ(Ramnami)」の人々は、ヒンズー教のカースト制度の最下層ダリット(Dalit)に属するために聖地への立ち入りを禁じられてきた。

 ラムナミ運動の人々は頭からつま先まで流れるような文字でラーマ神の名を彫り、身をもってその信心深さを示している。

 クジャクの羽の冠をかぶり、やはりラーマ神の名が書かれた白いショールをまとった70代のセトバイ・ラムナミさんは「ラーマの名に身をささげた」と語る。「寺院へは行ったことがない。ラーマの像に花をささげたことすらない」

 タトゥーだけでなく、献身を示すため、この運動の名を姓として名乗る。

■抵抗のタトゥー

 100年以上前、寺院への入場を拒否されたダリットの祖先たちは、灯油ランプから出るすすで作ったインクと針で対抗した。

 高位カーストのヒンズー教徒に対し、ラーマ神はカーストや性別に関係なく、万人のための神だと示す抵抗のメッセージがタトゥーだった。

 2億4000万ドル(約360億円)をかけて建てられた新たな寺院の場所には、16世紀に建造されたモスク(イスラム礼拝所)があった。

 だが、ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相の所属政党で、ヒンズー国家主義を掲げるインド人民党(BJP)の支持者らが1992年に、モスクを取り壊した。これをきっかけに、イスラム教徒を中心に約2000人が死亡するインド独立以来最悪の宗教暴動が起こった。

 今年の総選挙で3期目の続投を目指すモディ氏は、ヒンズー教寺院の開設によって自らの支持基盤をいっそう固めようとしている。

 だが、ラムナミ運動の人々は、自分たちのタトゥーはどんな寺院よりも強いと言う。グララム・ラムナミさん(52)は、アヨディヤ寺院に集う人々にとってラーマ神がいるのは「偶像の中」だが、「われわれは自分の体を寺院にしたのだ」と語った。

 新たな寺院の歴史に刻まれた暴力についても指摘する。「ラーマは決してモスクを壊せなどとは言わないし、イスラム教のアラー(神)も決して寺院を壊せとは言わない」

 ヒンズー教徒は死者を火葬することが多いが、ラムナミの人々は土葬を選ぶ。ラーマ神の名を燃やしたくないからだ。

 グララム・ラムナミさんは「カーストが低いと思われることなど気にしない。われわれはカーストや階級が意味を持たない土地に属している」と述べた。

 映像は今年1月に撮影。(c)AFP/Aishwarya KUMAR