【12月8日 AFP】香港の民主化運動で最も著名な活動家の一人、周庭(アグネス・チョウ、Agnes Chow)氏(27)は、民主化デモを扇動した罪などで服役した後も、「外国の工作員」の烙印を押され、パスポート(旅券)を押収され、出国を制限されていた。

 今年7月、警察は香港から出る意外な方法を提示した。謝罪状を書き、治安当局者と共に中国本土の深セン(Shenzhen)を訪れ、IT大手の騰訊控股(テンセント、Tencent)本社などの中国の業績を見学すれば、引き換えにカナダ留学を認めるという内容だった。周氏は8月、深セン行きを決断した。

 周氏は、現在滞在しているカナダ・トロントからAFPのビデオ取材に応じ、深セン行きの決断について「とても、とても怖かった」と語った。当局が約束を守るかどうかは賭けだったという。

「弁護士にも家族にも友人にも、誰にも言わないようにと警察から言われた」

 深センでは何枚も写真を撮られ、中国の偉大さを見せてくれた治安当局者への感謝状を書くよう求められた。

 周氏は「香港のことは心から愛しているが、同時に恐怖の場所のようにも感じる」と語った。

 周氏は3日、SNSで「香港の情勢や身の安全、心身の健康を考慮した」結果、香港には戻らないと決断したと明かした。

 これに対し、香港政府トップの李家超(ジョン・リー、John Lee)行政長官は5日の会見で、周氏を「生涯にわたって」追跡すると警告。警察は「寛大な対応」をしようとしていたと主張した。

 これに対し周氏は「過去3年間、寛大な対応など一切なかった。自由、日常生活、基本的人権、すべてを奪われていた」と反論。

「(周氏が外国の工作員だという主張について)どこの国の誰の手先だというのか。中国政府が国家安全維持法(国安法)や香港の法制度を、反体制派を中傷し弾圧するための政治的道具として利用しているにすぎないのは明らかだ」と批判した。

 周氏は香港滞在時、カナダ留学の詳細、長年の民主化運動への後悔などさまざまな文書を書くよう求められた。

 書状には、ひな型があった。「印刷された見本があって、私はただそれを手書きで写した」

 重要なのは、二度と民主化運動に参加しないと誓わされたことだ。

 中国当局は、ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を受賞した故・劉暁波(Liu Xiaobo)氏ら民主活動家の信用を失墜させるために、文章やテレビ画像で後悔を語らせることを長年、常とう手段としている。

「沈黙していたら、いつかこうした写真や文書が、愛国心の証拠として利用されてしまうだろう」と周氏は懸念する。「私はただ世界に伝えたい。それは真実ではない。強要されたものだ」

 周氏は、中国政府が権威主義的な統治を強める香港で2012年、14年、19年に若者が起こした抗議活動の中心メンバーの一人。19年には、香港の警察本部前で行われた抗議集会への参加を扇動した罪などに問われ、約7か月間、服役した。(c)AFP