【1月1日 AFP】キルギスの西の端にあるバトケン(Batken)州の小さな町カダムジャイ(Kadamjay)。白いスカーフをかぶり、伝統的な刺しゅうの入ったベルベットの上着を着たタシュカン・ハキモワさん(77)が、木製の糸巻き機を使って、キルギス伝統のじゅうたん作りに使う毛糸を紡ぐ。

 ハキモワさんの隣には、毛のかたまりを持った少女が座っている。

 毛糸は数百時間かけて、キルギス伝統のじゅうたんに変わっていく。

 じゅうたんを作れる人の数は減りつつあり、技術が途絶えてしまうことを懸念する人も多い。

 ハキモワさんはAFPに「私たちの親の世代が作り方を教えてくれたが、みんな忘れつつある」と話した。

 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)が、化繊素材の敷物の普及や若者が関心を失っていることから、キルギスじゅうたんの技術は「緊急に保護が必要」だと警告したこともある。

 旧ソ連時代に建てられたカダムジャイの文化会館では、約20人の「おばあちゃん(グランマ)」のグループ「ハッピーグランマ(Happy Grandmas)」が週に数回集まり、子どもたちにじゅうたん作りを教えている。

「ここにいるのは、世代を超えて伝統技術が引き継がれていってほしいからだ」とハキモワさんは言う。

 ハッピーグランマの一人、ラハット・ゾロエワさんは「材料費はほぼ無料」だと話す。毛は飼っている牛や羊から刈って、何一つ無駄にしない。

 じゅうたんにはキルギスの遊牧民文化を思い起こさせる文様があしらわれる。

 アライ(Alay)山脈の合間に位置するカダムジャイは、キルギスでも最も貧しい地域にある。

 同じく「ハッピーグランマ」に所属するサリヤ・ボゾエワさんは、月々「約6000ソム(約9600円)の年金をもらっている」と話した。「じゅうたんは数百ユーロ(数万円)で売れるので、年金の足しになる」

 ハキモワさんと夫はかつて、カダムジャイの金属加工工場で働いていたが、工場が倒産したため、若者は他の場所で仕事を探さなくてはならなくなった。町には今も広大な工場の廃虚が残る。

 近年は隣国ウズベキスタンとの緊張が緩和されたことから、カダムジャイ周辺の観光振興や、地元経済の活性化の可能性が出てきた。また、伝統的なキルギスじゅうたんへの外国からの注目も高まっている。

「主に(首都の)ビシケクから、注文がたくさん入っている」「もうすぐ日本にも輸出する」とゾロエワさんはうれしそうに話した。

 映像は2023年10月に取材したもの。(c)AFP/Arseny Mamashev