【11月9日 AFP】パーキンソン病歴約30年の男性患者の体内に電極を埋め込み、脊髄に電気刺激を与えることでほぼ普通に歩けるようになったとするスイスの研究成果が6日、学術誌ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)で発表された。

 外科医のジョスリーヌ・ブロック(Jocelyne Bloch)氏と神経科学者のグレゴワール・クルティーヌ(Gregoire Courtine)氏が率いるチームは、数年前に同様の方法で下半身がまひしていた患者の歩行を回復させている。

 フランス在住の患者マルクさん(62)は約30年にわたり、パーキンソン病に苦しんできた。病状が進行した患者の90%にみられる歩行障害の中でも、特に「すくみ足がひどい」とAFPに語った。「障害物があったり、誰かが不意に目の前を横切ったりすると、足がすくんで転んでしまう」

 マルクさんはスイスで手術を受ける機会が訪れた際に飛び付いたという。「今はもう、ある位置から次の位置までどうやって行くか、心配せずに歩くことができる。散歩でも買い物でも、どこでも好きなところへ自分で行ける」

■ブラジル旅行も計画

 研究チームはマルクさんの脊髄に沿って、複数の要所に「神経プロテーゼ」の複雑な電極システムを埋め込んだ。そして歩行を促すために電気刺激を送るだけでなく、患者の望む動きになるよう刺激のタイミングを適正化した。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に所属するクルティーヌ氏は「脚に装着した小型センサーで、残存する動き、つまりさらなる歩行の意思の測定を試みた。これによって患者が歩きたいのか、停止したいのかを知り、それに応じて刺激を調整することができる」とAFPに語った。

 マルクさんはすでに2年近くにわたって、この神経プロテーゼを1日約8時間使用してきた。今ではだいぶ楽に歩けるようになり、ブラジル旅行を計画しているほどだと語った。ただし、特に階段を上る際など、集中力は依然必要だという。

 研究チームは対象をさらに6人のパーキンソン病患者に拡大して研究を続けている。ブロック、クルティーヌ両氏は、将来的な商品化を視野に「オンワード(Onward)」というベンチャー企業を立ち上げている。

 映像は3日撮影。(c)AFP