【11月3日 AFP】キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地がある東エルサレムの旧市街は今、巡礼者も観光客の姿もなく、不気味なほど静まり返っている。

 パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)を実効支配するイスラム組織ハマス(Hamas)とイスラエル軍の戦闘開始から約1か月。迷路のような旧市街のほとんどの商店は、シャッターを閉めたままだ。

 土産物店の店主で、祖父の代からツアーガイドをしているというマルワン・アティエさん(48)は、「観光産業はもうない」と嘆いた。「家族も子どももいるのに、商売も収入も生活もない。金がないのに使いようもないだろ?」

 イスラエル当局によれば、ハマスが攻撃を仕掛けた10月7日以来、エルサレムの観光部門はほぼ崩壊している。

 AFPは2日、十字架にかけられたイエス・キリストが埋葬されたと信じられている聖墳墓教会(Church of the Holy Sepulchre)を訪れたが、空洞のようなホールを時折、聖職者が通るだけだった。

 エルサレムに留学中だというイタリア人の神学生ピエトロ・マッツォッコさん(31)は「今はご覧のように完全に空っぽ。人がいません」と語った。

 イスラエルに乗り入れている多くの航空便が運休し、観光ツアーもキャンセルされ、旧市街には人けがない。

 フランス人のラシッドさん(24)は現在の状況を自分の目で確かめたいと思い、旅行をキャンセルしなかった。ヨルダンから陸路で国境を越えたが、イスラエル当局の入国審査は長時間に及んだ。

 街を歩いていると、警官に何度も呼び止められたという。「道に誰もいなくて妙な感じがする。両方の人々が恐れて、敏感になっている。私が誰なのか、どこから来たのかと警戒心が強い」

■イスラエル兵は「みんなを蹴とばしていく」

 イスラエルが併合を宣言している東エルサレムでは検問とパトロールが強化され、アルアクサ・モスク(Al-Aqsa Mosque)の金曜礼拝も参加する人が減っている。

 旧市街の住民は大半がパレスチナ人で、イスラエルの治安部隊による嫌がらせや暴力を恐れ、家から出ようとしない人が多い。

 ガザでの武力衝突は、エルサレムに近いヨルダン川西岸(West Bank)にも不穏な影響を及ぼしている。紛争開始以降、イスラエル軍やユダヤ人入植者との衝突でパレスチナ人130人以上が命を落としている。

 1日にはイスラエル軍に包囲されているガザ地区に連帯するゼネストが行われ、東エルサレムやヨルダン川西岸の店は完全に閉店した。翌日は多くの店主が身の安全のためとして、AFPの取材に応じなかった。

 店主の一人エマド・シディイさんは「今は危険だ。安全じゃない」と言った。「(イスラエル軍の)兵士はみんなを蹴とばしていく。人間に対する態度じゃない」

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相はハマスとの停戦はあり得ないと断言しており、絶望は深まるばかりだ。

「私たちはあらゆる人々のための平和を望んでいる」とシディイさん。「動物のように殺し合うのはごめんだ。私たちは生きる必要がある」 (c)AFP/David STOUT