■「政府がもっと支援を」

 ウォラウット・シラパアーチャー(Warawut Silpa-archa)社会開発相は9月、年金を月額81ドル(約1万2000円)に引き上げるよう求める声が出ていることについて、その余裕はないと語った。

 市内のスラム、クロントイ(Klong Toei)に住むチューシー・ゲーウキアウさん(73)は、「生活費がかさんでいるので、政府がもっと支援してほしい」と話す。

 夫のスチャートさん(75)さんは紙おむつを着け寝たきりの状態で、水漏れがする天井を眺めている。修理するお金はないと言う。

 スチャートさんのためにチューブ入りの栄養飲料を購入するため毎月借金をしており、電気代は5か月分滞納している。

 タイ社会では、成人した子どもが高齢の親の面倒を見ることが期待されている。

 カシコン銀行のブリン氏はしかし、労働人口が縮小し、経済成長が鈍化、消費支出も減る中、長期的にはそうした慣行は持続不可能だと指摘する。

 TDRIのキリダー氏によると、男性は65歳前後まで働くが、女性は高齢の親や義理の親の世話をするため50歳前後に離職し始める。同氏は、手頃な料金で利用できるデイケアセンターを増設する必要があると話した。

 労働省は、定年年齢を現在の55~60歳から引き上げることを検討している。

 ブリン氏は、付加価値税を現在の7%から10%に引き上げるなど税制改革の必要があるかもしれないと指摘した。

 バンコク都知事は、高齢者向けのスポーツ施設やクリニックの拡充に乗り出している。

 しかし、多くの人にとって、尊厳を持って老後を送るのははかない望みだ。

 30年間教職に就いていたエーウさん(70)さんは未婚で、新型コロナウイルスの流行時に家を失い、今ではバンスー(Bang Sue)中央駅の椅子で寝泊まりしている。

「年金は足りない。通りでプラスチック製の花を売っているが、仕事がほしい」と訴えた。

 映像は今年9月に撮影。(c)AFP/Lisa MARTIN / Chayanit ITTHIPONGMAETEE