【11月3日AFP】タイの首都バンコクに住む73歳のノイさんは、無償の食事を手に入れるため照りつける太陽の下で並ぶことができない日は、コンビニエンスストアで買ったパンにケチャップをかけて食べるしかない。1日当たり0.82米ドル(約123円)相当の年金では、自宅で料理するのはほぼ不可能だ。

 バンコクのコミュニティー・ヘルプ財団(Community Help Foundation)は、ホームレスや貧困層向けに毎日、500食を無償で提供している。

 世界保健機関(WHO)によると、タイは世界で最も速く高齢化が進んでいる国の一つだが、対策は整っていない。

 現時点で60歳以上人口は1200万人以上で、全人口の約18%を占める。商業銀行大手のカシコン銀行(Kasikorn Bank)は、2029年までに65歳以上人口が21%となり、超高齢社会の仲間入りをすると予測している。

 多くの人は低所得で貯蓄も乏しく、公的年金も不十分なため、極度の貧困に陥るとみられる。納税対象者が減る一方で、医療費は現在の3倍に膨らむため、財政負担の増大が予想されている。

 タイ開発研究所(TDRI)のキリダー・パオピジット(Kirida Bhaopichitr)氏は「時限爆弾を抱えているようなものだ」と指摘する。

 高齢者の貧困化が進んでおり、カシコン銀行によると、高齢者のうち年間所得830ドル(約12万4000円)の貧困線以下の割合は34%に達する。

 同行のチーフエコノミスト、ブリン・アドゥンワタナ(Burin Adulwattana)氏によれば、バンコクで退職後もそれなりの生活を送るには少なくとも10万ドル(約1500万円)の貯金が必要だが、実際には1300ドル(約20万円)未満の人が多い。

 前政権は退陣を控えた8月、これまで月額16~27ドル(約2400~4000円)だった年金の支給対象を低所得者に限定すると発表した。その結果、600万人が対象から外れることになった。

 セーター・タウィーシン(Srettha Thavisin)首相は、2027年までに貧困を撲滅すると公約。「誰一人取り残さない」と強調している。与党・タイ貢献党は選挙公約として81億ドル(約1兆2100億円)規模の高齢者対策を掲げていたが、今のところ年金引き上げなどは打ち出されていない。