【10月19日 AFP】パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)との境界に近いイスラエルのキブツ(生活共同体)、クファルアザ(Kfar Aza)住民のアムノン・タルさん(55)は今週、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマス(Hamas)による襲撃後初めて、自宅のある集落を再訪した。

 クファルアザは、厳重に警備されたガザ地区との境界から2キロと離れていない。タルさんは、「取りに来た物が幾つかある」と話した。

 イスラエル当局によると、ハマス戦闘員は7日、境界フェンスを突破し、クファルアザの家々を回り、住民を殺害した。イスラエル軍は、数時間に及んだこの襲撃で、住民700人のうち子どもを含む約100人が殺害されたと発表している。

 生き延びた近隣住民はタルさんに、回収を希望する物を電話で伝えていた。タルさんは、預かった複数の鍵にひもを通してひとまとめにしていたが、無用だった。今や集落内に、ドアや窓が残っている家などない。

 タルさんは、ある民家の居間から回収してきた男性の写真を車のトランクに収めた。この男性のひつぎの上に置くためだ。

 ここ数日、何人もの友人や近隣住民の葬儀に参列したタルさんは、「これは人間の仕業ではない。あいつらはけだものだ。いともたやすく、楽しむかのように殺した」と語った。

 タルさんの息子(16)の寝室も、至る所に弾痕があった。ハマスが残した薬きょうが、ベッドの上に散乱していた。

 自宅が襲撃された時、タルさんは妻と息子と共に、ロケット弾から身を守るシェルターに逃げ込んだ。

 強化ドアは内外両側から開けられるが、最初の発砲音を聞いた時、タルさんは冷静に外側の取っ手を外した上で、中に隠れた。

 武器になる物は30センチほどの肉切り包丁しかなく、「それを握りしめたまま4時間過ごした」と振り返った。

 タルさん一家は現在、他の生存者らと共に、イスラエル中部にある別のキブツに身を寄せている。タルさんはガザ地区の方を指さし、「何もかもが片付くまで、ここには戻らない」と言った。(c)AFP/Daphne Rousseau