【9月27日 東方新報】今年のノーベル賞の発表は、10月2日の生理学・医学賞からスタートする。生理学・医学のほか、物理学、化学、文学、平和、経済学の六つの賞がある。それぞれの分野で毎年1~3人が受賞し、これまでに900以上の個人と団体に贈られている。

 日本のノーベル賞受賞者は非欧米では最も多い28人(うち3人は米国籍)だが、中国は意外に少ない。自然科学分野では、2015年に抗マラリア薬の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した女性研究者の屠呦呦(Tu Youyou)さんが初めてだ。

 中国にルーツを持つ外国籍の研究者まで含めれば受賞者は大勢いるとみられるが、どこまでカウントするかは難しい。そもそも国境を越えた協力で成り立っている科学の業績を出身国や国籍の枠組みで比較することに大きな意味はなさそうだ。

 屠さんのノーベル賞受賞は、激動の中国現代史が深く関わっていたことも注目された。

 中国における抗マラリア薬発見につながる研究プロジェクトは、毛沢東(Mao Zedong)主席の指示によって1967年5月23日に始まった。当時の中国は、ベトナム戦争でソ連と共に北ベトナムを支援していたが、戦闘行為だけでなくマラリアで命を落とす兵士も多かったという。

 抗マラリア薬を開発するために、中国全土から集められた優秀な研究者の中に屠さんもいた。彼女は、中国の伝統薬に着目し、古文書を読みふけったという。ある古文書に、中国では紀元前2世紀には、ヨモギの仲間である青蒿(セイコウ、和名:クソニンジン)がマラリアの特効薬として使われていたとの記述があった。試行錯誤を繰り返して、その成分を抽出することに成功したのだ。

 マラリアとは、原虫をもった蚊(ハマダラカ属)に刺されると感染する病気。熱帯・亜熱帯地域の100か国以上で流行しており、世界保健機関(WHO)の推計によると、2021年には約2億4700万人が感染し、61万9000人が死亡している。WHOや各国政府は、抗マラリア薬の普及に力を入れており、薬の原料になる青蒿の需要も増えているという。

 一方、青蒿は特殊な気候でしか育たず、中国の主要産地である内陸部の重慶市(Chongqing)酉陽トゥチャ族ミャオ族自治県(Youyang Tujia and Miao Autonomous County)では、官民あげて注文増に対応している。

 現在、県内には青蒿の植栽企業は7社あり、契約農家は1万3000世帯で、乾燥した青蒿の葉の年間生産量は7500トンに上っている。乾燥させた葉から抽出される抗マラリア薬の成分は全世界で消費される量の80パーセントを占めるとの試算もある。酉陽県では、効率的な栽培や抽出のための研究機関を設置するなど増産に務めている。一日も早く感染地域に抗マラリア薬が行き渡ってほしい。(c)東方新報/AFPBB News