【8月18日 東方新報】中国でここ数年、「陪診師(病院付添人)」という職業が登場するようになった。独り暮らしのお年寄りらが通院するのに付き添い、それで代金を受け取るという仕事だ。

 付添人の仕事は病院の予約、診察や検査の同伴、薬の受け取りなど。特に資格や医学知識を必要としない。一般的な料金は半日同伴で200~300元(約4000~6000円)、一日で300~500元(約6000~1万円)ほどだ。

 上海市で付添人をする女性、劉転(Liu Zhuan)さんは「1日で2~3人の付き添いをします。親が出張で同伴できない児童から独り暮らしのお年寄りまで、『お客さん』はさまざまです。上海市内のトップクラスの病院から街の診療所まで、通院先も毎回変わります。今日は22歳の患者の超音波検査に同行しています」と説明する。

 湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)で病院付添人をしている「95後(1990年代後半生まれ)」の女性、章章(Zhang Zhang)さんはインターネット上で自分の活動を紹介し、「毎日の収入は平均600~800元(約1万2000~1万6000円)。月収は1万8000元(約36万円)から多い時は2万5000元(約50万円)」と説明する。夜は自宅で心理学や医療実務の書籍を読み、スキルアップに努めているという。

 それにしても、「子どもは別にして、大人なら一人で病院に行けないのか?」と疑問に思うところ。ここには中国ならでは医療事情がある。医療現場ではスマート化が進み、スマートフォンからアプリで診療予約をして、処方箋も電子データで受け取るのが当たり前になった。しかしスマホやインターネットを使いこなせない独り暮らしの高齢者も多数いる。

 また、中国は予約の段階で診察を受ける医者も選択するのだが、病院に着いた後にさらに登録手続きが必要。予定の診察時間が来ても呼び出しがなく、ようやく診察を受けて「次は検査に行って」と医師に言われても検査の場所が分からない。検査を受けても結果待ちまでまた時間を要し、処方箋と薬を受け取る頃には一日が終わってしまうことも珍しくない。「病院に行って体調を崩した」という笑えない体験談は数多い。

 そもそも、中国では大病院と小さな診療所で医療水準が大きく異なり、診療費も違うため、自分の病状にどの医療機関が適切か分からない場合すらある。こうした事情から、患者の体調に適した病院に一緒に行き、一番効率的なルートで診察・検査を受けるため、病院付添人という職業が生まれた。中国最大級のプラットフォーム「美団(Meituan)」によると、病院付き添いサービスをする会社・個人のサイトは1000以上という。

 ただ、前述したように、病院付添人は医学知識があるわけでも正式な職業でもない。それで依頼人から「体にずっとじんましんができる。漢方医に診てもらうか、一般病院がいいか」という相談を受けたりしている。病院に同伴している途中に患者に異変が起きても、応急措置などの知識や経験もない付添人が多い。

 中国老年学・老年医学学会の高宏(Gao Hong)副事務局長は、「病院付添人が医学の基礎知識や法的リスクを学ぶ研修プログラムを作り、サービスと料金の基準を設けるべきだ」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News