【9月17日 AFP】中国で「村BA」と呼ばれる草の根のバスケットボール大会が注目を集めている。地方のつつましやかな伝統だった大会は、インターネットで大きな人気を集め、中央政府がプロパガンダに用いるまでになっている。

 6月、南西部・貴州(Guizhou)省の寒村「台盤郷(Taipan)」では、真夜中近くにもかかわらず、照明の降り注ぐコートに満員の観客が詰めかけ、選手に声援を送った。観客はポットやフライパンを使ってはやし立て、インターネットでは無数のファンが固唾をのんで試合開始のジャンプボールを見つめた。

 バスケットボールは中国で非常に人気のスポーツだが、ファンは汚職がまん延し、八百長も取り沙汰される国内トップの中国プロバスケットボールリーグ(CBA)に嫌気が差し、他のリーグに熱中するようになった。村BAの選手は全員アマチュアで、勝者に贈られるのは食品くらい。それでも試合の純粋な熱量がファンと選手を引きつけている。

 100キロ以上離れた別の村のチームに所属するシャ・ウェンシャン選手は、「台盤郷に着いてすぐ、最初に熱気と興奮を感じた」と話し、「村BAにはCBAやNBA(米プロバスケットボール)と同じ競技スポーツの精神がある」と続けた。

 少数民族が多数を占める黔東南ミャオ族トン族自治州に位置する台盤郷では、数十年前から毎年バスケットボールの大会を開催してきた伝統があるが、近隣以外で注目されるようになったのは最近だ。

 全国的な観光名所には思えないような場所だが、村BAがSNSで爆発的な人気を博し、国営メディアでも取りあげられるようになったことで、この夏は多くの人が村を訪れた。大会主催者によれば、会場の収容人数は村の人口の16倍を超える2万人以上で、国営の新華社通信は、オンラインでの視聴者数は累計1億人を超えたと伝えている。

 村BAの成功は、人気にあやかりたい企業や公権力にとっても絶好の機会になっている。地元の文化観光局は、村で配っているパンフレットで「中国式現代化がうかがえる窓」と共産党お得意のスローガンを使って村BAをたたえ、国営メディアの環球時報も、「地元住民の余暇を充実させるだけでなく、地方を活性化し、農業強国を築く狙いもある」と伝えている。

 試合のハーフタイムには、ファンが中国国旗を振り、昔の人民解放軍の軍服の仮装をしたパフォーマーがコートを歩く。村の建物には、赤い横断幕に書かれた「農村スポーツは地方の未来を照らす光」や「村BA、団結し、勤勉に、勇敢に前進せよ!」といった標語が踊る。コートの電光掲示板には「すべての民族がスポーツをともに楽しむことで、中国の精神は前進し、中華の力は結集する」というメッセージが表示される。

 人気の高まりに合わせて、ビジネスとしての魅力も増している。

 7月末には、NBAのスター選手で、中国のスポーツ用品ブランド李寧(Li Ning)の公式マーケティングパートナーでもあるジミー・バトラー(Jimmy Butler)が台盤郷を訪れ、出迎えた熱心なファンや選手と一緒にドリブルやシュート練習を行った。

 バトラーが帰った後も、台盤郷は引き続き盛り上がりを見せている。NBAのステフェン・カリー(Stephen Curry)の大ファンだという2人の息子を連れた男性は、「村での試合は雰囲気が素晴らしい」と話し、「CBAの試合はネットで見てもいいが、村BAは絶対に会場へ足を運んで、ファンの興奮を体感すべきだ」と続けた。

 映像は7月に撮影。(c)AFP/Peter CATTERALL