【8月25日 AFP】東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の処理水海洋放出が始まった24日、中国・北京では水産業者の間に動揺が広がっていた。

 北京最大級の水産市場の店で店長を務めるワン・ジンロン氏(53)は、放出開始の数時間前にAFPの取材に応じ、売り上げにはマグロを中心に既に「大きな影響」が出ていると語った。

 ワン氏は、中国政府が7月に福島を含む10都県からの水産物の輸入を禁止したことに言及し、「以前は新鮮な日本産の魚が手に入ったが、税関で止められたため、2か月前から手に入らなくなった」と説明しながら、日本産の冷凍魚類を見せた。これを売ってしまえば、再入荷はできない。ただし消費者に今も買う気があればの話だ。

「以前とは売り上げに大きな差がある。新型コロナウイルスの流行時でも毎週3~5匹のマグロをさばいていた」とワン氏。今さばいているのはごくわずかで、しかも日本産ではなくオーストラリア産、ニュージーランド産、スペイン産だが、品質が「非常に悪く、日本産とは比べ物にならない」と言う。

 だが、日本産の水産物に対する中国国民の「大きな抵抗」を前に、選択の余地はほとんどないという。「この汚染の話題は注視されている」

 国際原子力機関(IAEA)は海洋放出計画について、国際的な安全基準に合致しており、「環境への放射線による影響は無視できる程度」だと評価している。世界の専門家の間でも、安全だとの見方が支配的となっている。

 しかし、24日の放出開始直後、中国政府は日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表した。

 同市場の他の店からも、放出計画の影響は大きいとの声が上がった。多くの業者が最近、日本産水産物の販売を中止している。健康への影響を懸念する消費者と、輸入規制措置が圧力になっているという。

 ある業者はAFPの取材に対し、いつもマグロは日本から仕入れているが、理由は単純で、他の産地のマグロは日本産ほどおいしくないからだと語った。(c)AFP/Peter CATTERALL