【8月20日 AFP】南米アマゾンの奥地で、ジャガー模様のようなタトゥーを施した先住民族マツェ(Matses)の男性が、動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」に初めて接続した。男性は「もし私がお金持ちだったら」と題された動画を見て大笑いした。

 この村には電気が通じていなかった。しかし、実業家イーロン・マスク(Elon Musk)氏率いる米宇宙開発企業スペースX(SpaceX)が提供する衛星インターネットサービス「スターリンク(Starlink)」が村に設置され、ネットを使えるようになった。

 ペルーとコロンビアの国境に近い北部アマゾナス(Amazonas)州バレドジャバリ(Javari Valley)のノバエスペランサ(Nova Esperanca)村は、人口約200人。最寄りの町から500キロ以上離れており、カヌーで3日かかる。

 だが、村唯一の学校の屋根に設置された大きな太陽光発電アンテナのおかげで、外の世界とすぐにつながることができるようになった。

 ジャバリ先住民保護区(面積850万ヘクタール)では、19集団のうちマツェを含む7集団がネットに接続された。

 マツェは遊牧的な生活を送る戦闘民族で、1970年代に近代社会と接するようになった。西洋風の服装をするようになったいまも、顔の周りに骨や象牙製の装飾品を着け、狩猟や漁をして暮らしている。顔にタトゥーを入れている高齢者もいる。

 しかし、変化は起きている。

 アンテナが設置された日、携帯電話を持つ人はティックトックやユーチューブ(YouTube)に接続したり、ワッツアップ(WhatsApp)で音声メッセージを送ったりした。その多くが10代の若者だ。

 最寄りの町、アタライアドノルテ(Atalaia do Norte)を拠点とするマツェの団体の代表ベネ・マユルナさんは、ネットのおかげでモーターボートに乗らなくても、他の村々と連絡を取り合えるようになったと、AFPに語った。

■教育の改善

 ノバエスペランサへのネット開通の資金は、遠隔地でネットを提供するイニシアチブの一環として、アタライアドノルテが負担した。

 受信料も町が払っており、今後はネットの提供を約60の村に拡大する計画だ。これにより、約6000人がネットを利用できると見込んでいる。

 アタライアドノルテで先住民唯一の議員を務めるセザール・マユルナ氏は、ネット開通の目的は教育の改善だと説明した。「将来は、土木技師や地質学者、建築家、弁護士、看護師などの訓練をするのが夢だ」と言う。

 ネットの開通によって住民の暮らしが激変し、伝統文化が変わるとの懸念もある。

 ノバエスペランサでは、高齢者を中心にネットを不安視する見方が広がっている。アンテナ設置後、高齢者らは緊急会合を開き、日没後はネットを遮断することが決まった。教師や医療従事者、首長は例外となる。また狩猟や漁、儀式の日にも遮断される。(c)AFP/Lionel ROSSINI