【7月16日 AFP】イタリアの首都ローマにある「アッリゴーニのベーカリー(Panificio Arrigoni)」は、ロールパンの「ロゼッタ」や全粒粉のパンなど約100年にわたりローマ教皇にパンを作ってきた。しかし、周辺の住民が減り、光熱費が高騰したことなどから7月上旬に閉店した。

 バチカン市国のサンピエトロ広場(St Peter's Square)から徒歩わずか5分のボルゴピオ(Borgo Pio)にある店は、店主アンジェロ・アッリゴーニさん(79)の父親が1930年に開業した当時から教皇の元にパンを届けていたという。

 新教皇が選出されるたび、好みに応えるパンを用意してきた。

 78年に選出されたポーランド人のヨハネ・パウロ2世(John Paul II)教皇は「労働者が食べているパン」を希望した。

 アッリゴーニさんによると、当時の労働者は伝統的なローマの大きなパンで、今ではほぼ誰も作れなくなったチリオーラやロゼッタを食べていた。そこで、チリオーラとロゼッタを5個ずつ届けることにした。その習慣は約27年にわたる在位中続いた。

 その後、ドイツ人のベネディクト16世(Benedict XVI)が就任した際、アッリゴーニさんが教皇の元を訪ねると、修道女に新教皇は枢機卿時代からよく訪れていたベーカリーを使う旨を伝えられた。

 アッリゴーニさんは修道女にこう返した。「うちがそのベーカリーだ!」。ベネディクト16世は枢機卿時代、アッリゴーニさんの店からチーズと無発酵のパンを買っていたのだった。

 現在のフランシスコ教皇(Pope Francis)にも届けている。ローマ教皇は新しいベーカリーを見つけなればならなくなる。

 地元常連客の減少とエネルギー価格の高騰により経営が苦しくなったため、店を閉めることにした。アッリゴーニさんは4日、店のオーブンの電源を切った。

「ここら辺は変わった」「以前は大勢が住んでいたが、住宅はすべて観光客向けの賃貸になった」と語る。

 観光客は日用品を買わず、ローマのレストランでの外食を好む。

 アッリゴーニさんの店は観光客向けの屋外テーブルがなく、特に目立っていた。市議会の許可が得られなかったという。

 バチカンで記者として働くヤコポ・スカラムッツィーさんはツイッター(Twitter)で、ノスタルジーに酔っいてる市議会はなぜ「教皇のベーカリーとバチカンの歴史の一部」を守れないのかと批判した。(c)AFP