■「ヒンズー教の兄弟、姉妹」へ

 専門家は、こうした動画が拡散・共有されることで、国内におよそ2億1000万人いるイスラム教徒に対する否定的な固定観念や陰謀論が強化されると指摘する。

 120万回再生されたある動画では、ブルカを着用して女性に変装した男が「誘拐」した子どもを抱えながら追われる姿が映っている。

 動画には「ブルカはテロ行為を隠蔽(いんぺい)し、犯罪を助長する。インドでブルカは禁止されるべきだ」とのキャプションが付けられている。

 別の動画では、だまされてイスラム教徒の男性と結婚させられたヒンズー教の女性たちが描かれている。これは、極右ヒンズー主義者がよく使う表現だ。

 こういった動画は、イスラム教徒を攻撃したり、経済的に排除したりする目的があるほか、宗教間の緊張が高まったりした時のSNS上の運動の一部であることが多い。

 トイレ用洗剤の動画には「目を覚ませ…ヒンズー教の兄弟、姉妹よ、今すぐ目を覚ませ。経済的排除がジハーディストに対する唯一の手段だ」というコメントが付けられていた。

 話題を集めた後に、AFPなどのファクトチェック機関にデマだと証明されたため、制作者により取り下げられた動画もある。

 トイレ用洗剤の動画に注目が集まったため、ベルマさんはメディアから電話を受けたり、警察と話さざるを得なくなったりした。怖くなったため、それ以降はいたずらやダンスなど、たわいのない内容の動画に切り替えた。

 SNSの規制回避のため、「この動画はやらせです」というようなあっという間に消える「注意書き」を表示させる動画も多い。

 作家・映画監督で、誤情報とヘイトスピーチを追跡する記者でもあるパランジョイ・グハ・タクルタ(Paranjoy Guha Thakurta)氏は、そういったプロデューサーは動画のSNSでの分類を「娯楽」にするなど、「抜け穴」を使って偽情報を拡散させると指摘する。

 動画が削除されたら、再投稿されることも珍しくはない。

 フェイスブックを運営する米IT大手メタ(Meta)に、動画について尋ねると調査中との答えが返ってきた。ユーチューブやツイッター、インド政府からは回答を得られていない。

 メタは、「プラットフォーム上ではヘイトスピーチは許されない。見つけたり、気付いたりした場合は削除する」と説明しているが、フェイスブックや他のSNSでキーワード検索すると、こうした投稿が今も複数公開されていることが分かる。

 タクルタ氏は、インド人の多くは自らの偏見を強化する動画を好み、その正確性を確かめることなく共有すると指摘。SNSに対する規制は存在するが、スマートフォンの利用数6億台の人口14億人のインドにおいて、効果的に施行されていないと話す。

「インドでは、SNSはイスラム嫌悪とイスラム教徒に対する憎悪拡散に利用もしくは悪用されている」と強調した。(c)AFP/Devesh MISHRA