【6月25日 AFP】冬のある寒い夜。シリア北西部の反体制派支配地域ハザノ(Hazano)に住むイブラヒム・オスマンさん(59)は礼拝の帰り道に、モスク(イスラム礼拝所)の入り口に捨てられていた生後数時間の赤ちゃんを見つけた。

「連れて帰って妻に、贈り物があるよと言った」と話す。

 オスマンさんは赤ちゃんをヒバトゥッラー(Hibatullah、神の贈り物の意)と名付け、家族の一員として育てることを決めた。

 3歳になったヒバトゥッラーちゃんは、髪を緩く後ろにまとめ、光沢のあるピンクのサンダルを履いてよちよち歩き回っている。今ではオスマンさんのことを「おじいちゃん」と呼ぶ。

 シリアは12年以上に及ぶ内戦で荒廃し、貧困が悪化。市民は絶望に打ちひしがれている。当局によると、赤ん坊はモスクや病院の外、オリーブの木の下などに捨てられている。

 シリアでの人権侵害を記録する米国を拠点とする団体「真実と正義のためのシリア人(Syrians for Truth and Justice)」によると、内戦が始まる2011年前までは捨て子の数は数件しかなかった。

 しかし、同団体が3月に公表した報告書によると、21年初めから22年後半に捨てられた子どもは100人以上に上っており、うち女児が62人を占める。実際の数はこれをはるかに上回ると推定される。

 捨て子の数は、内戦による社会・経済的な影響と共に、反体制派地域と政府の支配地域両方において「劇的に増加した」としている。貧困や不安定化、児童婚のほか、性的虐待や未婚での妊娠が背景にあるという。

■「被害者」

 内戦の犠牲者は50万人を超えている。避難者は数百万人に上り、インフラも被害を受けた。

 保健省職員はAFPに対し、政府軍の支配地域では昨年10か月で新生児53人(男児28人、女児25人)の捨て子が報告されていると説明した。

 バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領は今年、捨て子のための施設の設置を命じる大統領令を出した。

 反体制派の支配地域イドリブ(Idlib)県には、捨て子のための主要施設がある。赤ちゃんは揺り籠の中で毛布にしっかりくるまれ、専門家による世話を受けている。

 職員によると、オリーブの木の下で見つかった女児には猫による傷があった。「顔から血が出ていた」と話す。

 イドリブの反体制派当局のアブドッラ・アブドッラ(Abdullah Abdullah)氏は、2019年に開業して以来、この施設で女児14人、男児12人の計26人の赤ちゃんを受け入れており、今年だけで9人を迎えたと説明した。

 アブドッラ氏は捨て子に関しては「戦争にも家族にも責任がある」と話した。「子どもたちは被害者だ」

 映像は3~4月撮影。(c)AFP