【5月2日 AFP】パキスタン西部の地平線からバルチスタン(Balochistan)州中部に、ラクダに乗った調査員がやって来た。木造の質素な家々が立つ集落を見つけ、部族民の集計を取る、国勢調査の始まりだ。

 道路も電気もない、テレビ電波さえ届かない名もない集落。アシでできた五つの小屋に、遊牧民の3家族15人が、ヤギやヒツジを飼って暮らしている。

「何時間もラクダに乗って行く」と地元の国勢調査を監督するファラズ・アハマドさん(34)は話す。「国勢調査の対象の人たちがいる山で、数日生活しなければいけないこともある」

 調査チームは、都市や町をバイクで一軒一軒回る。だが、バルチスタン州の人里離れた場所では、コンクリートの道路は未舗装の岩だらけの道になり、しまいには岩石地の荒野へと続き、道はなくなってしまう。

 このため、ラクダが国勢調査を終わらせるための唯一の手段になっている。

 別の国勢調査員モハンマドさん(30)は、州都クエッタ(Quetta)から東に約200キロに位置する人里離れたコール(Kohlu)地区を訪れていた。道なき道をラクダに1時間乗って来た。「調査に協力してもらうよう説得するのに時間がかかる」

 飾りを付けたラクダが、モハンマドさんを地上に降ろすためにかがむ。モハンマドさんはこぶから降り、住民に質問を始めた。「時々面白いことも起こる。調査チームには警護要員が同伴しているため、逃げ出す人もいる」と話した。

 バルチスタン州ではパキスタンからの分離独立を掲げる武装組織が長年活動している。また、北西部では国勢調査の警護に当たっていた警察官が、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に殺されたこともある。

 アハマドさんによるとコールの住民の5~10%は、ラクダ以外の交通手段では行けないような場所で生活している。

 ラクダのレンタル料は1日1000パキスタン・ルピー(約475円)で、先導役のラクダ使いの料金も含まれている。

 交通手段はローテクだが、今年から紙ではなくタブレットが使われるようになった。(c)AFP/Maaz Khan