【3月24日 AFP】モーリタニア・サハラ(Sahara)砂漠の中心に位置する町シンゲッティ(Chinguetti)で、サイフ・エル・イスラム・アフメド・マフムードさんは古い書物のページを慎重にめくる。

 薄い紙に炭とアラビアガム(アカシア樹脂)を混ぜたインクで記された文字を見ながら「詩がなかったら世界はどうなるのだろう」とつぶやく。

 この書物は、アフメド・マフムードさん一族が所有する700冊のうちの一つだ。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産に登録されているシンゲッティには、約6000冊のアラビア語書物を所蔵する13の私設図書館があり、その多くは中世後期にまでさかのぼる。

 町に保存されている書物のテーマは、イスラム教や天文学、法律、数学、詩など多岐にわたり、人類の文化や進歩を示すタイムカプセルとも言える。

 紙や羊皮紙に書かれているものが多いが、羊の皮に記されたものもある。

 これら書物は、シンゲッティがアフリカ大陸西岸とイスラム世界の中心地メッカ(Mecca)を結ぶ交易路にまたがる地点に位置することからもたらされた、非常に貴重な知識、芸術、哲学遺産だ。

 住民によって集められた書物は、その一族が代々管理してきた。

 シンゲッティの中央広場では、アブダラ・ハボットさんが一族の所有する私設図書館の扉を開ける。

 ハボットさんは、町を訪れた旅人のおかげで、これまでに1400冊以上の書物を手に入れることができたと話す。

 しかし、町の書物は現在、脅威に直面している。気候変動の影響で鉄砲水が発生し、書物を保管する古い建物が危険にさらされているためだ。

 アフメド・マフムードさんは、私設図書館が崩壊すれば「古くからの記憶は失われ、われわれは皆、貧しくなる」と警鐘を鳴らした。(c)AFP/Marco LONGARI