【3月12日 AFP】「カテゴリー1、健康状態B」。20代のドミトリーさん(匿名)が手にしているロシア軍が発行した書類は、ドミトリーさんに健康上の問題はなく、ウクライナの前線で戦っているべきであることを示している。

 だが、ドミトリーさんは今、ウクライナ東部から遠く離れたロシアのある場所にいる。

「この恥辱に加担することは、人生の汚点となる」とし、ロシアによるウクライナ侵攻は「野蛮」で「犯罪」だと批判した。

 ドミトリーさんは、昨年9月下旬の部分的動員で召集された30万人の予備役の一人だ。兵役に就いていた際には精鋭の空挺(くうてい)隊と訓練を受けたこともある。

 ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が動員を発表すると、対象年齢の男性たちは急いで国外に脱出した。

 ドミトリーさんはパートナーと子ども、大切な人のそばにいるために、ロシアにとどまることを決めた。

 国内にとどまりたい人や国外に脱出する手だてがなかった人の中には、医療上・職業上の理由で動員を回避した人もいる。

 正確な数は不明だが、ドミトリーさんのようにただ無視した人もいる。

 プーチン氏が動員を発表した数日後の9月末、ドミトリーさんに召集令状が送られてきた。だが、以前住んでいた別の州の住所宛てだった。ドミトリーさんはAFPに、政府発行の身分証明書に記された古い住所を見せてくれた。

 当局は、州の予備役リストから自分を削除しておくべきだったとドミトリーさんは指摘する。そのおかげで、動員を逃れやすくなった。「ただ、無視しただけだった」

 部分的動員令から約5か月たった今も、自分の居場所を当局に把握されないよう慎重に生活している。

 ドミトリーさんは現在住んでいる州の外へは出ない。在宅で外国のIT企業の仕事をしている。電話やパソコンのロケーションを隠すツールを使い、「厳格なデジタル衛生」を保っている。

 市街地の監視カメラも避けている。顔認識システムが導入されており、警察が動員忌避者の摘発に利用しているからだ。

「田舎は広いし、土地はたくさんある…何もないところに行くか、その逆で大都市に紛れるのもいい」

 AFPは同じく動員逃れをしているもう1人の若者を取材する予定だった。しかし、記者と会うことで警察の注意を引くことを恐れたため、土壇場でキャンセルとなった。

 2度目の動員が行われるといううわさが広がっている。動員逃れを密告される恐れもある。

 逮捕されれば、ドミトリーさんは収監される可能性がある。しかし、覚悟はできている。「国に逆らえないのなら、刑務所に行ったほうがましだ」 (c)AFP/Romain COLAS