【2月20日 AFP】「ロシア人は怖くない」。ウクライナ東部ドンバス(Donbas)地方で、国家国境庁の狙撃手(スナイパー)は言った。「でも、ここにいるのはママには内緒だ」と笑う。

 ウクライナ語で「カラス」を意味する「ボロン」のコードネームを持つ狙撃手(29)の居場所を、母親は察しているはずだ。12年前に入隊したボロンさんは、子どもの頃から狙撃手になるのが夢だった。

 アクション映画に登場する狙撃手は非情で寡黙(かもく)な一匹おおかみで、獲物を待ち伏せし、手際よく仕留める。

 だが、ボロンさんの話からは、そうしたイメージとは異なるスナイパーの実像が浮かび上がる。

「必要な装備は、車1台に収まらない」と話す。肌を刺すような寒さをしのぎ、素顔を隠すために防寒用の目出し帽をかぶっている。

 任務をこなすのに必要な物は、最長で1.5キロ先の標的を狙撃できるライフル以外にもたくさんある。「身を潜める場所を用意するためのシャベル。もちろん弾薬と、援護射撃と偵察を行う仲間も必要だ。通常は5、6人。最低でも4人は要る」

■「司令官の目」となる存在

 ロシアの侵攻開始から1年となる2月24日が近づくにつれ、戦闘の激化が予想されている。

 狙撃手も与えられた役割を果たしている。

 3キロ先の対象を偵察し、ひそかに敵の小部隊を撃つこともある。

 狙撃手の最初の仕事は、周囲の変化を慎重に観察することだ。「農村部では、前の晩にはなかった茂みが、敵の狙撃手だという可能性もある」とボロンさん。「市街地では窓や屋根に変化がないか、いつもと違うことはないかを調べる。あらゆることがリスクとなる」

 ボロンさんは、これまでの戦闘で狙撃手がどれほど役立ったのかという質問は巧みにかわした。ただ、狙撃手は万能ではないが、必要不可欠な存在だと指摘する。「私たちを嫌う人もいる。でも、何か問題があれば人々に常に必要とされている」

 平時には国境をパトロールしている準軍事組織の中で、狙撃手は特別な存在となっている。

「司令官の目となり、最も危険な脅威を排除する。もちろん、戦車は別だ」

■過酷な任務

 ライフルの照準器を何時間ものぞき続けるのはストレスになるが、極寒の中で何時間もじっと待機しなければならない方が大変だとボロンさんは言う。

 狙撃手は時には1か所に2日間も身を潜めることもある。先日は気温が氷点下12度ほどに下がり、雪が積もって辺り一面凍った。それでも狙撃手は耐えなければならない。

「めちゃくちゃ寒い」とボロンさんは笑った。「過酷な仕事だ」

 準備をして、待ち続けるのは苦しいが、それが狙撃手の強みでもある。

「軍にはこんなジョークがある。歩兵と狙撃手に8時間で1本の木を切るよう命じると、歩兵は8時間かけて1本の木を切り倒す」「狙撃手は7時間かけておのを研ぎ、一撃で木を倒す」とボロンさんは言った。 (c)AFP/Phil HAZLEWOOD