【2月19日 AFP】アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの空港で先週、ロシア人の妊婦6人が入管で拘束された。この出来事で、ここ1年ほどブームになっているロシア人の出産旅行が浮き彫りになった。

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、子どもの徴兵を回避し、国籍を取得するため、アルゼンチンに来るロシア人が増えている。

 ブエノスアイレスのカフェや公園やバス、特に民間クリニックで、新生児連れのロシア人女性やカップルを目にすることが多くなった。

 空港で拘束された6人は全員妊娠後期で、別々の個人旅行で来た。観光ビザ(査証)を持っていたが、帰りの便は予約しておらず、観光予定地の詳細を説明できなかった。

 当局は犯罪組織の関与を疑ったが、女性はアルゼンチンで出産したかっただけだった。同国の医療水準の高さと、国籍取得のたやすさなどがロシア人の間で人気の理由だ。

■「息子には生き抜いてほしい」

 出産旅行に来るロシア人の多くは、現在ウクライナで戦闘が行われているように、いつの日か子どもが徴兵され、戦争に送り込まれるのではないかと不安に思っている。

 アルゼンチンで20年間通訳者として働くエレーナ・シュキテンコワさんは、ロシア人妊婦たちの公的手続きを支援している。

「生まれるのが男の子だと分かったのでアルゼンチンに来ると決めた人もいる」とAFPに話した。

 アルゼンチンで生まれた子どもには自動的に同国の国籍が付与される。つまり、ロシア人の男の子がアルゼンチンで生まれた場合、成人後にロシアでの徴兵を回避することができる。

 親は「息子には生き抜いてほしい。平和に暮らしてほしい。私もより良い未来が欲しい」と話すという。

 アルゼンチンで生まれた子どもの親には居住権が与えられ、市民権も取得しやすい。

 フィノチェット療養所(Sanatorio Finochietto)では、ロシア人家族や妊婦が目立つ。担当者によると、約1年前からロシア人妊婦の数が徐々に増えてきた。昨年12月に生まれた子ども200人のうち、約4分の1がロシア人が親だったという。

 こうしたロシア人のほとんどはスペイン語を話せず、アルゼンチンに来るのも初めてだ。過去3か月で5800人以上のロシア人が、アムステルダムやイスタンブール経由で入国している。

 匿名を条件にAFPの取材に応えた、ロシア人妊婦を支援する事業を立ち上げた男性は、ロシア人が子どもに二重国籍を取らせようとする動きは前からあったと語った。ただ、これまでは米国が一番人気だった。

 この男性によると、アルゼンチン行きの出産旅行パッケージは最高で1万5000ドル(約200万円)掛かる。

「経済的に余裕があって、ロシア以外で子どもを産めるなら、みんなそうする。アルゼンチン国籍は簡単に取得できるし、赤いロシアのパスポート(旅券)を持っているより、ずっとましに扱われる」

 アルゼンチン警察によると、中には3万5000ドル(約470万円)を要求する業者もいる。

 アルゼンチン国民はビザなしで175か国に入国できる。これはロシアのパスポートでビザなし入国できる国の数を50ほど上回っている。(c)AFP/Philippe BERNES-LASSERRE / Nina NEGRON