■土地所有が最大の障壁

 スティーブンスさんは、貧困やギャングで知られる地区ケープフラット(Cape Flats)で生まれ育った。母親は工場で働いていた。母はミルズ&ブーン(Mills & Boon)の恋愛小説をよく読んでおり、ブドウ畑を舞台にしたものやワインにまつわるものが多かった。

 スティーブンスさんが初めてワイン造りを学ぼうとした1991年、南アはアパルトヘイト政策が取られていた。入学を何度も断られたが、93年になり認められた。

 スティーブンスさんの粘り強さは報われた。今年開催された南アのワイン・蒸留酒のイベントで、スティーブンスさんのソービニヨンブランを使った白(ワイン)と、母ジュリーさんの名を冠した新発売のロゼが計3個の金メダルを獲得した。

 しかし、他の黒人のブランド同様、スティーブンスさんもブドウは域内の農家から調達しており、自分でブドウを栽培する土地は持っていない。

 ワイン業界に参入する黒人にとって土地の入手が最大の障壁となっていると、シグカさんは指摘する。南アの人口の約8割を占める黒人の大半は歴史的に土地所有を制限されてきたため、「極めて政治的な問題だ」と話す。

 黒人は土地の入手において、「上の世代や白人、一等地を購入する海外バイヤーとも競っている。米ドルやポンド、ユーロとも競争だ」とシグカさん。

 障壁を乗り越えワイン業界に参入した有色人種のこれまでの道のりは、ほろ苦いものだ。参入には極めて時間がかかり、参入しても失敗できないというプレッシャーがのしかかる。

 シグカさんは、「私たちが自由になってから28年あったのだから、もっと多くの黒人がワイン業界への参入を望んでいたはずだ」と語った。

 ピーターセン氏によると、アフリカ最大のワイン生産国である南アには数百の生産者がいるが、黒人のブランドはわずか80余りにとどまっている。(c)AFP/Linda GIVETASH with Zama LUTHULI in Johannesburg