【9月12日 AFP】スポーツ用品大手アシックス(Asics)の男性社員(38)が、育児休業を取得したために不当な扱いを受けたとして、同社を相手取って起こした裁判の審理が12日、東京地裁で始まった。

 同社員は、男性の育児参加に関わる嫌がらせを意味する「パタニティー(父性)ハラスメント」、いわゆる「パタハラ」を受けたと主張し、440万円の慰謝料などを求めている。

 氏名非公表の同社員は、2015年から16年にかけて1年間、育児休業を取得。さらに第2子が生まれた2018年から19年にかけて再び1年間、休業した。

 男性は最初の育児休業前には、マーケティングや人事関係の業務を担当していたが、育児休業明けには子会社への出向を命じられ、物流倉庫で働いた。その後本社に戻ったものの、重要性の低い業務に就かされ、退職を迫る会社からの「無言の圧力」だと思うと、男性は話している。

 育児休業明けに自身の技能や経験と関係のない部署へ異動させられたと主張する同社員は、育児休業取得の決断に対する事実上の懲戒処分であり、さらには育児休業を取得したいと考える他の社員に対する見せしめだとして、会社を非難している。

 一方アシックス側は、同社員およびその代理人、また労働組合の代表らと真摯(しんし)な話し合いを持ったとしている。

 日本では法律上は育児休業に比較的寛容で、両親共に最長1年の育児休業を取得することができ、さらに保育所が見つからない場合などには6か月ごとに更新することが可能。

 しかし実際には、女性は8割以上が育児休業を取得するのに比べ、男性の取得率はわずか6%にとどまっている。しかも育児休業を取る数少ない男性のうち、7割以上の休業期間は2週間未満となっている。

 この差について労働運動家らは、雇用主からの圧力や長時間労働を良しとする社会の風潮が一因になっていると指摘している。

 原告側代理人の笹山尚人(Naoto Sasayama)弁護士はAFPに対し、政府が出生率向上に注力する中、育児休業の取得も法的に認められているにもかかわらず、父親が育児休業を取得すると厳しい批判にさらされると述べている。

 笹山氏は、戦後の日本で培われてきた文化では、男性に一家の唯一の稼ぎ手になることが期待され、男性が家に居ると非常に変わっているとみなされる傾向があると語った。

 日本でこうした裁判が行われることは珍しいが、現在カナダ人男性が三菱UFJモルガン・スタンレー(Mitsubishi UFJ Morgan Stanley)を相手取って起こした訴訟が、もう一つの「パタハラ」裁判として注目されている。(c)AFP/Miwa SUZUKI