■ダビンチ作なのかも議論に

 サルバトール・ムンディは本当にダビンチが描いたのか、多くの美術専門家の間で意見は割れている。

 ダビンチの技法の専門家ジャック・フランク(Jacques Franck)氏は、「細部を見れば分かる」として、指やその他の部分は「解剖学上あり得ない」お粗末な描写だと指摘。サルバトール・ムンディが制作された頃、ダビンチは時間がなかったため、特定の絵画については自身の工房に仕上げさせていたと説明した。

 美術史学者で「The Last Leonardo(最後のレオナルド)」を執筆したベン・ルイス(Ben Lewis)氏は、英ロンドンのナショナルギャラリー(National Gallery)は2011年にサルバトール・ムンディを展示したが、同美術館は、ダビンチ作であるかどうかを判定するために派遣された専門家5人のアドバイスを受け入れなかったと述べている。

 このときの判定は、2人はダビンチ作で間違いない、1人は違う、残り2人は分からない、と分かれた。それにもかかわらず、サルバトール・ムンディはダビンチ作として展示された。

 一方、2005年からサルバトール・ムンディの修復に関わったダイアン・モレスティーニ(Diane Modestini)氏は、「あれはダビンチが描いたもの」で、なぜ議論になるのか分からないと主張している。

 クリスティーズの広報担当者は、「私たちは、この作品を誰が描いたのかを判断するために2010年に徹底的な調査と研究を行い、その結果を支持している。クリスティーズで競売を行った2017年以降も、再考を迫られるような新たな議論や推測は出てきていない」と話した。

 今秋行われるルーブル美術館のダビンチ展で、来場者が実際に自分の目で見て結論を出す機会があるかどうかは今のところ不明だ。開催を前に数か月間もアブダビから返事がないのだとしたら、展示される可能性がないからなのだろうとフランク氏は言う。

 しかし、ルーブル美術館にとっては、それが結果的には吉と出るかもしれないと、あるダビンチ専門家は指摘する。サルバトール・ムンディを展示すれば、ルーブルのこれまでの「評判と信頼が汚される」恐れがあるからだ。(c)AFP/ Bruno KALOUAZ