■現状を意識するために過去を知る

 ナッソン氏は、ケープタウン最古の居住区であるランガ(Langa)の現在の様子を捉えた写真を最後に数枚投影した。

 写真には、トタン屋根の列、がれきの山、穴だらけの舗装道路が写っていた。これが表しているのは、アパルトヘイトが終結しても、南アフリカが今でも世界で最も不平等な国の一つであるということだ。

「現状を意識させるためには、過去を知ることが重要となる」とナッソン氏は話す。しかし、南アフリカでは中等教育の最後の3年間に歴史の授業は必修となっていない。

 同国のアンジー・モチェハ(Angie Motshekga)基礎教育相は、「植民地主義的または欧米的視点の継続」を終わらせるため、政府は歴史を必修にしてカリキュラムの全面的な見直しを考えていると話す。

 だが計画されている改革案をめぐっては、アパルトヘイトとその「遺産」に社会を不安定化させるリスクが潜んでいるとして、政治的な議論となっている。

■「復讐心」

 ケープタウンから約100キロのウースター(Worcester)の学校で歴史を教えているミルトン・チャングワ(Milton Changwa)氏は、生徒29人に黒人と白人の違いについて質問した。

 彼らの答えは、アパルトヘイト時代の負の遺産をあらわにした。黒人については「劣等」、「暴力的」、「無能」、「貧乏」と答え、また彼らが「文化」と「体格」で定義付けられるとした。一方の白人については「清潔」、「金持ち」、「知的」、「上品」、「礼儀正しい」、「金髪」と答えた。

 チャングワ氏はこの答えに驚かなかった。そして、「同じことを繰り返すことのないよう、彼らは事実を知らなければならない」と話した。

 同氏の授業ではこの後、アパルトヘイト時代の日常生活──隔離された居住地域、低水準の教育、職の機会の大きな隔たり、そして警察に対する不断の恐れ──について説明がなされた。

 これに対する生徒たちの反応は率直だった。ある生徒は「僕らをないがしろにする白人は嫌いだ」と述べ、また別の生徒は「復讐(ふくしゅう)心」を覚えたと語った。