■クレヨンを取られた気持ち

 エレーラさんは、愛する家族が行方不明になったらどのような気持ちがするのか子どもでも理解できるよう、こう語りかける。「友達が何も言わずに、あなたの鉛筆やそれがないと困る大好きなクレヨンを取って行ってしまったら悲しくなるよね?」

 サーカスでは1時間近く冗談が続く。だが、その後、楽しい時間は一転し、苦しく避けることができない話題へと移っていく。ピエロたちは行方不明者捜索に関するサイトの写真を使ってここへ来た理由を説明し、秘密の埋葬地を探すことが自分たちの使命なのだと明かす。

「発掘作業について説明し、手掛かりを探していると言う」。ピエロのメークは、アイラム・ロペス(Airam Lopez)さん(29)の痛みを隠してくれる。ロペスさんは2011年に行方不明になった夫を捜している。

 最後にサーカス団は子どもたちをいくつかのグループに分け、曲芸やロープの使い方を教える。絵を描くグループもある。近くには、子どもたちがピエロに伝えたいことを何でも、絵やメッセージにして置いていけるように「平和の箱」が置かれている。

■麻薬カルテルの「歩兵隊」

 メキシコの麻薬戦争が激しい地域の子どもたちは、事件の目撃者となるだけではなく、直接関与することも増えている。

 麻薬取引とそれに絡んだ公務員汚職に詳しい専門家、アレハンドロ・アルマンサン(Alejandro Almanzan)氏は、「子どもたちは麻薬カルテルにとって、新しい歩兵部隊だ」と語る。「最近、(米国境にある北部の街)ティフアナ(Tijuana)にいた時に、12歳、15歳、17歳といった子どもたちが完全武装しているのを見た。情報源から聞いた話によると、若者がもはや殺し屋になりたがらないので、麻薬組織は子どもたちを勧誘し始めたのだという。彼らは後になって、最後に生き残るのはボスたちだけだということを学ぶ」

 一方で、「麻薬につられる子どももいる。彼らは未成年者なので刑務所に送られることはない。麻薬ビジネスに浸かっている人は、間抜けな人生を50年生きるよりも、王様のように5年を生きる方がましだと考える。また、力ずくで引きずり込まれる子どももいる」。

 エスクチャパの公演は行方不明者捜索団にとって4回目で、「いくつかの情報」をつかんだ、とロペスさんは言う。

 捜索団は、当局を含め誰に対しても情報提供者の身元を明かさない。暴力犯罪の90%が罰せられない国で、捜索団に寄せられる情報は貴重だ。

 行方不明者の捜索を行う活動家の一人、アンドレス・ヒルシュ(Andres Hirsch)さんは、これは「社会の仕組みを修復する方法でもある」と指摘する。

 捜索団はゲレロ州での2週間の捜索活動の結果、7人の遺体、100個の人骨やその他の人体の一部を発見した。(c)AFP/Jennifer GONZALEZ COVARRUBIAS