■強権的政治との関係

 スウェーデンのストックホルムにあるシンクタンク「安全保障開発政策研究所(Institute for Security and Development Policy)」のエリオット・ブレナン(Elliot Brennan)氏は、ナチスを取り入れたファッションの流行と反ユダヤ主義を結び付けて考えることは「正確ではないし、何の役にも立たない」と指摘する。

「アジアに反ユダヤ主義が存在しないとは言わないが、アジアの場合、反ユダヤ主義というよりは、イスラエルに反対する立場に基づくものだろう」

 タイでは珍しいナチス・ドイツの歴史に関する課程があるチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)の歴史学者、トゥン・イサラーングーン・ナ・アユタヤ(Tul Israngura Na Ayudhya)氏は、ヒトラーに魅了される人々がいるのは、歴史教育の欠如という理由だけではなく、アジアの文脈の中で考えるべきだと指摘する。

 アジアの多くの国には、強権的な軍人や指導者との複雑な関係が存在し、近代国家を築いた愛国者として不当にたたえられることがある。例えば、毛沢東(Mao Zedong)の政策は多数の死者をもたらしたが、近年では郷愁をもって語られることもある。ヒトラーもアジアでは必ずしも「悪魔」と結び付けられるわけではないと、トゥン氏は言う。

 トゥン氏の授業を取っているドイツ語専攻のタナポン・ダーンパクディー(Thanapon Danpakdee)さんは、たとえ人を不快にさせるつもりがなくても、タイでナチスのシンボルが気軽に扱われている現状について、「(ナチスの行為を受けた)相手がいることを無視していると思う」と嘆いた。(c)AFP/Joe FREEMAN