■反体制文化の象徴

 第2次世界大戦中、ヒトラーが欧州で残虐行為を繰り広げていたころ、同盟国だった日本はアジアで戦闘を繰り広げていた。このため、東南アジアでは多くの人が、日本の戦時中の行為は地域の歴史として理解している。

 タイの高校の教科書もホロコーストを取り上げているが、世界史の「わずかな部分」にすぎないと、教育省の学者、チャルームチャイ・パンルート(Chalermchai Phanlert)氏は指摘する。

 サンスクリット語に由来する「スワスティカ」と呼ばれるかぎ十字(まんじ)は、インドを起源とし、ヒンズー教の寺院などアジアで広く使われてきた。

 だが、タイの若者は欧州においてのかぎ十字の意味やナチスの歴史全般を完全には理解していないと、チャルームチャイ氏は言う。それどころか、ドイツ第三帝国(Third Reich)のシンボルであったかぎ十字を、ファッションや反体制文化を象徴するものとして使っているという。

 昨年9月には、バンコク郊外の部屋ごとに異なるテーマの内装を施したラブホテルの一室に、ヒトラーの肖像が掛けられている写真がネットで拡散し、物議を醸した。

 バンコクで人気のウイークエンドマーケット、チャトチャック(Chatuchak)では、かぎ十字のバッジやシール、旗などナチスをテーマにした小物が売られている。また、観光客が集まるカオサンロード(Khaosan Road)の屋台には、ヒトラーが裸で海辺での休日を楽しむ図柄のTシャツがつり下げされている。

 さらにインドネシアのろう人形館では2017年、自撮り用に置かれていたヒトラーのろう人形が国際的な非難を浴びて撤去されたことがあった。