■政治に利用されるサッカー

 2014年ソチ冬季五輪では莫大(ばくだい)な経費に多くの批判が集まったことから、W杯終了後にスタジアムを持て余すのを回避することが政府の重要方針の一つとなっていた。ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は当局者に対して、W杯の「レガシー」プログラムを立案し、観客数の増加や若手選手の育成強化に努めることを要請した。

 スポーツの大ファンであるプーチン大統領は、地元当局に対して1990年代のようにスタジアムを野外マーケットとして利用することを禁止。こうしたことから新スタジアムが建設された各都市では、それぞれの自治体が地元サッカークラブを全面的に支援している。

 モスクワに拠点を置くビジネススクールの学長で、スポーツマネジメント部の責任者を務めているキリル・クラコフ(Kirill Kulakov)氏は、「ロシアでは、サッカーが政治に利用されている」と指摘している。

 ニジニーノブゴロド当局は、いずれ1部リーグに昇格することを期待して地元クラブを破産危機から救った。この地域では、クラブを支援する企業は減税の対象となった。

 さらに、FCゼニト(FC Zenit)の陰に隠れていたディナモ・サンクトペテルブルク(FC Dynamo Saint Petersburg)は、黒海のリゾート地ソチ(Sochi)に移転。チーム名も新たにPFCソチ(PFC Sochi)に変更して2部でプレーすることになり、フィシュト五輪スタジアム(Fisht Olympic Stadium)をホームスタジアムにした。

 しかし、ソチ五輪の開閉会式用に建設され、W杯ではロシアがPK戦でクロアチアに敗れた準々決勝などの試合が行われたこのスタジアムで、4万7000席を満杯にすることは容易でなく、観客が数千人を超えることはめったにない状況となっている。