■トゥラトリ村の殺害

 この他、ロヒンギャ迫害問題でICCに唯一付託されているのは、2017年8月30日、ロヒンギャの村、トゥラトリ(Tula Toli)が襲撃され、村人が大量虐殺された事件だ。

 ICCには人道に対する罪に関する捜査要請が届いており、広範な証言を集めた調査結果もすでに提出されているが、ミャンマー政府は事実を否定している。

 ミャンマー政府主導の調査委員会が新たに設置されたが、観測筋の多くは、政府が説明責任を逃れるためのものだと非難している。

 ミャンマー政府は一握りの軍人を、1件の虐殺に関与したとして告訴した。だが、国連の李亮喜(イ・ヤンヒ、Yanghee Lee)特別報告者は、ミャンマー軍の高官たちがすぐに裁判にかけられることはないだろうと、慎重に構えている。

 ミャンマーはICCに加盟していないため、ICCの検察官や人権問題を専門とする弁護士らは、通例とは異なる手段を取っている。隣国バングラデシュはICC加盟国で、ICCの管轄権が及ぶため、ロヒンギャがバングラデシュに入った時点で国外追放の罪が成立するという主張だ。

 ICCの裁判官が予審でこの異例の主張を審理したことに、ミャンマー政府は「深刻な懸念」を表明した。「彼ら(ミャンマー政府)がこれにいくらか脅威を感じているということが重要だ」と、トゥラトリ村民の代理人を務める英ロンドンの法律事務所、ダウティー・ストリート・チャンバー(Doughty Street Chambers)の国際弁護士、メーガン・ハースト(Megan Hirst)氏は述べた。