■「科学」ではなく「スティグマ」

 そもそも、免疫系を破壊してエイズを引き起こすHIVウイルスは「人から人へは容易には感染しない」と、専門家らは指摘する。

 コンドームが正しく使用され、性行為中に破れたりしなければ、HIV感染の恐れはなく、また抗レトロウイルス療法でウイルスが抑えられている感染者からの感染も十中八九ないと言える。予防手段として抗レトロウイルス薬を服用している非感染者についても、感染する可能性は低い。

 さらに、たとえこれらの条件が一つも満たされていなくても、1回の性的接触で感染する可能性は「低い」という。もちろん、その可能性が全くない訳ではないが、専門家らは「感染の可能性は低い」との意見で一致している。その他、「キスをする、かむ、唾を吐きかける」などの唾液への接触を通じてのHIV感染の可能性はないとも補足した。

 文書作成に関わった専門家らは今回、人から人への感染が発生したことの「合理的な疑問を残さない程度の証明」は、ウイルスの遺伝子検査では不可能だと強調した。

 それにもかかわらず、多くの国々に存在する法律の下では、かみつく、唾を吐く、オーラルセックスをするなどの多岐にわたる行為が罪とみなされ、多くのHIV感染者が拘束されてきた。

 オランダのHIV感染者擁護団体「HIVジャスティス・ネットワーク(HIV Justice Network)」のエドウィン・バーナード(Edwin Bernard)氏は「訴追の大半は、科学ではなく、スティグマ(負のレッテル)によって駆り立てられたものだ」と指摘した。(c)AFP