■シリア国籍が足かせになることも

 2016年に始動したプロジェクトの元手資金はわずか3000エジプトポンド。当時のレートで4万~5万円ほどだ。このうち25%を設備費として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が支援し、残りはカトリック教会系の慈善団体カリタス(Caritas)が出資した。

「練習場は少しずつ設備を整えた。壁を塗ったり、デザインを考えたり」とアワドさん。古ぼけた壁には武道やレスリングの各国チャンピオンのポスターが貼られている。アカデミーは近所で評判となり、今やエジプト人の親たちも子どもを通わせようとやって来る。

 コーチたちは全員無給だが、生徒の75%が月謝を免除されている状況ではやむを得ない。また、アワドさんの生徒たちは「シリア国籍なので、出場できない試合がたくさんある」という。集会の許可を取っていないとして、イベント開催を中止させられることもある。

 それでも、カリム・ジャラル・ディーン(Karim Jalal al-Deen)君(10)にとってアカデミーは、キックボクシングを完全習得してシリアに帰国するという夢を叶えるための場所だ。

「チャンピオンとしてシリアに帰りたい。そして、キャプテン・アデル(Captain Adel)を打ち負かすんだ。その後は僕もキックボクシングのコーチになるかもね」。カリム君は、レスリング男子フリースタイルの2006年と08年のシリアチャンピオンで、今はアカデミーの共同創設者兼コーチのアデル・バズマウィ(Adel Bazmawi)さんの名前を出し、将来の夢を語った。(c)AFP